牛蒡夢

□無自覚の救済
2ページ/2ページ







自室へ入り、すぐに寝室のベッドへと

担いでいた女を投げおろした。

小さく悲鳴を上げた女は

困惑の表情で俺を見つめているが

そこには先程の怯えはなかった。



さて・・・・・・どうするか。







『っ・・・あ、ああのぉっ!!』



「・・・ああ?」



『さ、ささっきは・・・た、たす・・・

た・・・助けて、い、ぃいた・・・』



「お前・・・普通に話せねえのか」







緊張か恐怖か知らねえが

どもりまくる女が

何を話してるか全く分からない。

苛立ちよりも呆れが先立ち

俺は今日一番の大きな溜息を吐き

ベッドの女の横に腰かけた。







「いきなりとって喰いやしねえ。

落ちついて話せ」



『あ・・・さっきは・・・

ありがとうございました。

助けていただいて・・・』



「別に・・・勘違いすんな。

さっきも言っただろ。

サイヤ人の女に飽きただけだ」



『で、でも・・・最初に

ぶつかった時も・・・

怒らないで、受け止めてくれました』



「・・・ちっ・・・

偶然だ。たまたまだ」



『・・・それでも・・・

ありがとう、ございます』







そう言って小さく頭を下げる女の

頬笑みというか微笑というか。

真っ白いという表現がしっくりくる

そんな神聖なものに思う程

単純に美しいと思えた。

長い髪がベッドのシーツの上へ流れ

彼女が動く度にサラサラと滑り

その様をただじっと見つめていた。







「お前・・・どうするんだ?」



『え・・・?』



「アイツに掻っ攫われてきたんだろ。

だったら、お前の星は制圧された。

・・・帰る場所なんてねえだろ」



『・・・それ、は・・・』







俯きながら今にも泣き出しそうな

その表情を見つめ、俺の中に

フツリと湧いたある感情。



この女が欲しい。



それは単純で、だが何よりも強く

深く浸食されていくような欲で。

執着を見せない俺が

初めてと言っていい程に

欲しいと切実に思った。

それはこの女の容姿もそうだが

滲み出ている、この女が纏うもの。

こんな風に攫われて

自身の帰る場所さえなくして

それでもなお、自身の仇であろう

相手の同族である俺に

縋ってきたあの姿。

馬鹿なのか、何も考えていないのか

それとも人が良すぎるのか。

いずれにしろ、興味が湧いた。







「・・・お前、飯作れるか?」



『え?』



「掃除、洗濯・・・できるか?」



『・・・はい』



「・・・俺のものになれ」



『え・・・』



「俺は遠征で何日もいねえことが多い。

この部屋は俺以外は誰も入らねえから

好きに使ってりゃいい。

置いてあるもんも食料やらも好きにしろ」



『?え・・・え?』



「その代わり、この部屋の家事は

お前が全部しろ、いいな?」



『・・・・・・』



「・・・おい、お前・・・

聞いてんのか?」



『あ・・・私、置いてくれるんですか?』



「・・・嫌なら出て行け」



『っ!ち、違います!!

まさか・・・置いてもらえるなんて

思わなかったから・・・』



「・・・俺が飽きるまでな」



『はい!ありがとうございます!!』







この女、俺の言った意味を

全然理解してねえな。

飽きるまでは置いてやる

つまり、飽きたら捨てるって

言ってんだが・・・。

それでも俺に礼を言う女の

さっきとは違う餓鬼のような

無邪気というのか

馬鹿っぽい笑顔が

何故か、俺の胸をざわつかせた。

それは静かな湖面に

一粒の滴がもたらす

ジワジワ広がる波紋のように。

静かに、でも広く広く

体の内全体に広がって行く。







『・・・あの・・・』



「ああ?」



『・・・名前、を・・・』



「・・・バーダックだ」



『バーダックさん?』



「ふん・・・呼び捨てでいい

気持ち悪ぃ・・・」



『え・・・えっと・・・

じゃ、じゃあ・・・バー、ダック?』



「ああ・・・お前は?」



『!・・・私は、ミルク、です』



「ミルク、な・・・分かった」







この時俺は、この感情を

苛立ちにも似た焦燥の意味を

俺はまだ、知りもしなければ

気づきもしていなかった。








〜END〜


前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ