牛蒡夢

□歪な世界の美しさ
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片隅の意識がなんとなく浮上し

半分覚醒してきている感覚。

眠気が大半を占めている中

再度深く寝付こうとしたが

自分の体にピタリとくっつく

程良い温もりをぐいっと抱き寄せた。



・・・抱き寄せた?



あるはずのないその感覚に

今度こそしっかりと覚醒した。

自分が抱きしめるソレを

じっと見つめて零れたのは

いつもの溜息。







「はぁ〜・・・・・・

ったく、またかよ」



『ん・・・』



「・・・・・・はぁ」







ゴソゴソと身動ぎながらも

俺の服を掴んで離さねえ。

俺よりも小さなその手を

引き離そうと触れて

ドクンと鼓動が跳ねる。

訳の分からない症状に

知らず眉間に力が入って

自分に思わず舌打ちが出た。



ミルクとの暮らしが

二ヶ月を過ぎたが・・・

未だコイツに手を出していない。

いや、何故か出せねえ。

何度も、それこそ遠征以外の日は

いい加減にその体を開いてやろうと

そう思ってはいるが。

何にも知らねえような瞳で

真直ぐに見上げられたり

笑いかけられたり。

そうすると、毒気を抜かれるというか

そこから踏み込むことができねえ。

そんな自分への苛立ちが

日に日に募っていく日々に

いい加減限界も近いのかもしれねえ。







『ぅ〜ん・・・・・・ん?』



「・・・起きろ」



『ぁ・・・ふ、ぁ〜・・・ん・・・

おはようございます・・・』



「・・・お前、何でここで寝てんだ」



『・・・だって・・・』



「ちっ・・・何の為に

ベッドを譲ってやってんだよ」



『・・・一人じゃ・・・寂しいんです』







どうでも良いと思いながらも

さすがにコイツをソファーでは

寝かせられねえと思ったから

ベッドで寝ろといつも言うが。

朝起きれば、こうして

ソファーで寝る俺にくっついてる。

いい加減にしろ、と

何度言ったところで

全くもって正されないこの状況。

再度、大きく溜息を吐いて

ミルクにバサっと

かけていた毛布を被せて

顔を洗いに向かった。







『え・・・?』



「明日から七日くれえか?

また、遠征に行くことになった」



『七日、も?』



「目的の星の奴らは

大した奴らじゃねえが

こんかいはかなりの距離がある。

ほぼ移動時間の問題だな」



『・・・・・・』



「どうした?」



『・・・・・・・・・ううん』







朝飯を終えて

コイツが片づけも済ませた時。

俺がどうでもいいように

いつもの仕事の話を出した。

コイツとの生活を始めてからは

一番長い期間を空けることになる。

それでも、それだけのことだと

そう思って話した訳だが・・・。



ふいにミルクの表情が曇り

俯いてしまった。

覗きこんでみると

何故か、今にも泣き出しそうな程

滴が目尻にたまっている。

流石に予想もしていなかった

コイツの状態に俺も驚いた。







「おまっ・・・何泣いてんだよ」



『な、泣いてない・・・です・・・』



「泣いてんだろ」



『うぅ・・・泣いてないもん!!』



「ガキか、お前は」



『どうせ・・・子供、だもん』



「・・・はぁ・・・何拗ねてんだ」



『・・・拗ねて、ない』



「じゃあ、何なんだ!?」







訳も分からずただ泣きそうなコイツに

今まで溜まってた苛立ちも相まって

ブチ切れそうになった。

コイツに当たっても仕方ないが

この苛立ちをぶつける先が分からない。



俺がミルクの

腕を掴んだのと同時に

くいっと掴んだ方と反対の手で

俺の服の裾を掴んできた。

思わず動きを止めた俺を

見上げてきたその瞳は

未だ滴を溜めながらも

何かを訴えるかのように

真直ぐ俺を見据える。



・・・やめろ。

・・・・・・そんな・・・

そんな瞳で、俺を見るな!



その視線から逃れるように

掴んでいた腕を離して

俺は自室を後にした。









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