牛蒡夢

□歪な世界の美しさ
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「どうしたんだ?お前らしくもねえ」



「・・・うるせえ」



「はは、機嫌悪ぃな」







ミルクを残して向かったのは

いつもの酒場。

そこに見知った顔もなく

仕方がねえと、カウンターに座る。

何も言わなくとも出てくる酒と

かけられる言葉に

一番自分で分かっている部分を

指摘されたが故の苛立ちが増す。



俺らしくねえ、だと?

んなこと自分が一番よく分かってる。



本当にらしくねえ己に

訳が分からねえ。

いや、今に始まったことじゃねえな。

アイツに・・・ミルクに会った

あの時からずっと持っていた疑問。

自分のことを自分が分からねえ

それがこんなにも困惑し

これ程までに苛立ちを生むなんて。

全くとは言わねえが

思いもしなかったんだ。



小さく溜息をついて

一気に煽った酒は

いつもよりも美味くなかった。







「何、してんだ?」



『あ・・・バーダック』







結局、気さえ紛れねえと

酒2〜3杯で帰ってきた。

で、自室へ入ると

何故かガラステーブルに

細身の革紐と俺が渡したピアスを

綺麗に並べていた。

ピアスは片方、左側だけを

テーブルに置いていた。



俺の質問に答えず

視線をテーブルへと戻したミルク。

とりあえず半泣き状態からは

戻っているようで

俺はまた、溜息を零してから

コイツの斜め後ろのソファーに

どかっと腰を下ろした。



すると、ミルクが

細い手を翳すと

淡い光が革紐とピアスを包みこみ

そのまま収縮すると

パンっと弾けた。

思わず腕で目を隠し

眩しさからの衝撃を避けた。

周囲が落ちついてから

ゆっくり腕を下すと

テーブルには革紐で

ラピスラズリを編み込んだものが

そっと置かれていた。







「一体、何をしたんだ」



『私の種族は、物作りというか

精製する力が発展していたんです。

私はこの変換の力が

特別秀でていたみたいですけど・・・』



「変換?」



『元になる材料があれば

それを何かに変えることが

できるんですよ。

例えば、木から紙へ変えたり

大きい物だと家具へ変えたり』



「・・・すげえな」



『・・・これを』







そう言って渡されたのは

先程コイツが言う変換で

精製したらしい物。

ラピスラズリを革紐で編んだ物。

受け取ってみて分かったが

どうやらペンダントのようだ。







『お守り、です』



「お守り?」



『っ・・・私の大切なもの

バーダックにあげる。

半分あげる、から・・・

だから・・・』



「・・・おい」



『無事に、帰ってきて?』



「・・・・・・」







ポタリと床に落ちた滴。

ただじっとミルクを見つめて

朝からの変な態度のコイツの

その様子の意味にやっと気がついた。

たぶん、コイツは・・・。







『っ・・・っく・・・』



「・・・泣くなっつってんだろ」



『・・・だ、って・・・』



「・・・・・・寂しいのか?」



『ひっ・・・だ、だって!!

・・・七日って、一週間、だもん。

そんなに、長い間・・・

離れたこと、なかったもん』



「・・・言葉遣いが崩れてんぞ」



『ぁ・・・い、いいの!!』



「・・・・・・・・・・・・はぁ」



『っ・・・!?』



「・・・・・・・・・ミルク」



『・・・・・・・・・え』







名前を呼んで、両腕を軽く開いて。

じっと見下ろして。

俺が何をしているのか

どうしろと言ってんのか

分かるはずだと。

そういう意味も込めて

ただ、じっと見つめていた。

そして、今度こそ

ボロボロと滴を溢れさせ零しながら

俺の腕の中へ飛び込んできた。



しっかりと抱きついてくる

その弱々しい力に

でも何故か、振り払うことができない。

そんな気は更々ないけども。

知らずその小さな体を

力を込めて抱きしめていた。

柔らかさも、温もりも

香りも、形さえも違う。

何もかもが俺とは違う。

引き寄せられるように

細い首筋に顔を埋めて

ぐっと息を吸い込めば

ゾクリとするような

甘い香りが俺に纏わりついた。



思わず助けてしまった理由。

コイツが欲しいと思ったわけ。

苛立ちにも焦燥感にも似た気持ち。

無性に温かくなる胸の奥。

ラピスラズリの意味。



全てが一つに繋がる。

まるでパズルのピースが

合わさっていくように。

何故、気づかなかった。

何故、分からなかった。

何故、知らずにいられた。

・・・・・・・・・・・・俺は。







『・・・ふっ、ぅ、うぅ・・・

・・・き・・・』



「・・・・・・」



『・・・っく・・・す、きぃ・・・

バーダック、がぁ・・・好きぃ』



「・・・・・・ああ」



『っく・・・ごめ、なさぃ・・・』



「・・・何謝ってんだ?」



『っ・・・ひ、っく・・・

だって・・・めい、わく・・・』



「んなこと、いつ誰が言った」



『え?・・・んっぅ!?』







無理やり頭を掴んで唇を塞いだ。

深く重ねて開いた唇から

逃げようとする小さな舌を

強引に絡め取ってやった。

すると、感じたこともない程

その口内は甘いものだった。

歯列をなぞっても

上顎に舌を這わせてみても

舌裏を舐めてみせても

堪らない程に、甘い。



苦悶の表情を浮かべた

ミルクに気付き

名残惜しげに離れてやると

イヤらしく唇の端から

混じり合った唾液が零れ

コイツと俺の舌を

ツっと銀糸が繋いでいた。







『ぁ・・・は、あ・・・ぅ・・・』



「ふっ・・・エロい顔だな」



『ふ、えぇ!?』



「くくっ・・・んな変な声出すな。

ムードも何もねえな」



『っ・・・こ、こんな状況で

・・・キス、ってこと自体・・・

ムードなんて、ないよ・・・』



「そうか?

離れんのがイヤだっつって

泣いて縋る女を

キスで慰めてやる・・・

十分良い雰囲気じゃねえか」



『ぅ・・・』



「それに・・・

惚れた女に触れんのに

ムードだ何だって

いちいち考えてられるかよ」



『!?・・・今、惚れた・・・って』



「・・・言葉通りの意味だ」



『!・・・あ・・・う・・・』







また意味のない言葉を

漏らしてるミルクを見つめ

苦笑が零れる。

この苛立ちは思いこんでいただけで

ムカついてるわけじゃなく

単に、コイツが可愛くて

堪らなかっただけだ。

気づいたとたん抑えられなくなるって

それは、男なら仕方ねえのかもな。



もらったお守りとやらを

首からさげると。

そんな俺を真っ赤になりながら

未だ見つめ続けるミルクを

再度抱きしめて口づけてやった。







〜END〜


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