牛蒡夢

□心肺停止寸前
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カタカタとパソコンの

キーボードをタイプする音。

リズミカルな音と共に

液晶を睨みつけるように

見つめるその瞳。

煙草を咥えたまま

時折灰を落としそうになり

僅かに舌打ちをして。



大きな背中を見つめながら

どうしてこの人は

何をするにもカッコイイのだろう。



肘辺りまで捲くられた袖口から覗く

綺麗な腕が妙に厭らしく見える。

そんな自分の考えに

顔が熱くなってしまって。

でも、視線を外せなくなって。

このままずっと、見ていたいなぁ。







「いい加減にしろよ」



『・・・え?』



「さっきからジロジロ見やがって。

気が散るだろうが」



『・・・だって・・・』



「もう少しで終わる。

それまで大人しく待ってろ」



『じゃあ、見てても良い?』



「人の話聞いてなかったのか?」



『・・・・・・だって・・・

仕事してる姿も・・・

カッコイイんだもん』



「・・・・・・」



『ちゃんと黙って大人しくしてるから

・・・終わるまで見てたらダメ?』







ソファーにコロコロ横になりながら

お願いしてみたものの

反応が返ってこない所を見ると

やはり駄目だってことらしい。

しゅんと、目に見えるように

落ちこんでいると

彼の癖ともいえる大きな溜息が一つ。

ああ・・・ついに呆れられちゃった?







「・・・本当、ムカつく奴だな」



『っ・・・ごめんなさ・・・』



「お前に強請られるのに弱えんだって

お前が一番知ってんだろ?」



『・・・・・・知らない、よ』



「弱えんだよ。

っつうか、お前に関することで

俺の思い通りにできることなんてな

そうそうねえんだよ」



『うそ!・・・え、エッチの時とか

そ、そういう雰囲気の時って

いっつもバーダックさん主導だもん』



「お前が物欲しそうな面しやがるから

それに応えてやってるだけだ」



『私、そんなにエッチじゃないもん!』







ソファーから起き上がり

謂れのない数々に

更に言い募ってやろうと思った。

思ったのに・・・。

いつの間にかパソコンから離れて

知らない間に私の傍にいて

気づかない間に抱きしめられていた。

自分のことを棚にあげて、とか

私よりもずっとエッチなくせに、とか

私を思い通りにしてるじゃない、とか。

言いたいことなんていっぱいあった。

でも・・・こうして抱きしめられると

そんなものスコンと抜けて

どこかへ消えてしまう。







『・・・ずるい』



「ふん・・・ずるいのはどっちだ。

仕事中にな、あんな視線送ってくんな」



『・・・大人しく、してたのに』



「あんだけ熱い視線で見られりゃ

ビシビシ刺さって気になんだよ。

それに・・・欲情して

仕事どころじゃなくなっちまうだろ」



『っ、よ、欲情っ!?』



「だから、責任とれ」



『せ、責任、って・・・』



「まだ3分の1くれえ残ってんだが

ミルクが煽るから

仕事に手がつかねえんだ」







とさっと狭いソファーに倒され

ぎしっと二人分の重みに耐える

ソファーの悲鳴が聞こえる。

今更焦ったって仕方ないけど。

でも・・・私はカッコイイ彼を

四六時中見ていたいって。

ただ、それだけだったのに。

それが彼をこんな風にさせるなんて

誰が予想できたのだろう。



するっと大きな手で

とても優しく頬を撫でられて。

それでも反対の手は

私の左手をきつく掴んで押さえつけて。

この相反する力加減に

何故か酷くときめいてしまう。







『っ・・・どう、しよぉ』



「何が?」



『・・・バーダックさんが・・・

カッコよ過ぎて・・・

私、どうしたらいいか分かんない』







激しく響く鼓動が

耳元で聞こえる。

それ程に目の前の彼に惹かれて

今にも呼吸さえ止まってしまいそう。

キュンキュン痛む胸も

ドキドキ寿命を縮める音も

何もかもが彼に反応する。



困り果てた私の言葉に

若干照れを隠しながらも

次の瞬間にはいつもの

ニヤリとした笑みで

私に死亡宣告を下した。







「どうしたら、なんて・・・

決まってんだろ?

お前の頭の先から足の先まで

全部よこして、愛されてろ。

・・・俺が満足するまでな」







〜END〜



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