牛蒡夢

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がばっと起き上がると

絡みつくように

俺の腰へ回された細い腕が

ずるっと解かれた。

横を見やると穏やかな寝顔で

熟睡するミルク。



大きく息を吐き

項垂れるように

膝を立てた右足に

腕と頭をのっけた。

夢見が悪かった・・・

内容は思い出せねえが。

最悪だったことだけは確かだ。

それだけのこと。

なのに・・・どうしてか

夢から醒めたにも関わらず

未だにこうも焦燥感が拭えねえ。







「ちっ・・・何だってんだ」



『ん・・・ぅ・・・』



「!・・・・・・」







一瞬起こしたかと思ったが

ぐずるように体を動かしただけで

その瞳は開くことなく

また深く眠りについたようだ。

自分の隣りで眠る愛しい女。

伸ばした手で触れていることが

とてもかけがえのねえことに

思えて仕方がない。



少し前の俺が見たら

一体どんな顔をするのか、なんて

想像すると思わず笑えてしまった。

ミルクを知らなかった頃の俺。

それを思い出せねえって

どれだけコイツに固執してんだか。

だが・・・今の自分を否定する

そんな気は更々ねえ。

ましてや、コイツが俺の傍にいねえ

そんな世界を想像でさえも

考えたくもねえ。



本当に今夜の俺はおかしいな。



窓の向こうの星を眺め

明日もまた遠征に出る。

この日々の中で

後、俺が制圧すべき星が

どれ程あるのか、なんて

途方もないことを考えてみた。

目に映る星を数え始め・・・

意味のねえことに

馬鹿らしくなりやめた。



さっきの夢。

多分、こんな夢だったんだろうな。

大事なものを守りたい。

やるべきことと守り抜くことへ

懸けるもんの大きさ。

頭の隅っこに、心の奥に

僅かにあったもんが

浮き彫りとなった、そんな夢。







「くそっ・・・・・・」







この訳の分からねえ感情は

惑わされただけで

決していつも考えてたわけじゃねえ。

だが・・・

今は隣りで眠るコイツが

不安を抱いてるってことは

俺もよく理解してる。

いくら俺が言葉にしようと

行動にして安心させようとも

拭いきれねえってことも

俺は嫌という程理解してる。

どうしようもねえことだ。



らしくねえ程に

優しく額に口づけを落として

どうしようもねえって

そう分かりながらも。

コイツが感じている

心を覆う闇の部分を

何とかしてやりたい。



願わくば、今いるその世界が

俺とは違う光溢れるものであれば、と。

そう願わずにはいられねえ。



今度は小さく息を吐くと

横になりながらミルクを

ぎゅっと抱きしめた。

迫りくる何かから守るように。

決して脅かされねえように。

それが、現だろうと夢だろうと。



もうそこまで来ている明日に

今はもう少しコイツといる

今日を感じていたくて。

あと僅かな時間を

ミルクを抱きしめながら

微睡みに身を委ねることにした。







〜END〜


 

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