牛蒡夢

□ある日の幸せ
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『あ・・・』







大学からの帰り道。

彼のマンションに向かう為

夕食の材料を買っていた。



今日の夕食のメニューを聞いて

お昼過ぎに返ってきた

彼からのメール。

“肉”

それはメニューじゃなくて

材料だけど・・・。

“肉なら何でも良い。

お前の作る飯は何でも美味えからな”

そんな風に返されちゃったら

何も言えなくなっちゃうのに・・・。



結局スーパーで食材を見ながら

メニューを考えていた。

今日は牛肉がセール中だったから

牛肉をカゴに入れながら

よし、いっぱい作れる

カレーにしよう。

いつもたくさん食べる彼だから

今からでも大量に作れるメニューで。



そして、スーパーから出て

マンションに向かう途中。

ほっぺたにポツっっと

冷たい何かがあたった。

空を見上げると

それはポツポツと次々に落ちてきて

あっというまに本降りとなった。







『やぁ〜!!何で降ってくるの!?』







どこか雨宿りできる場所をと

探しながら走り出したものの

商店街から離れてしまって

そういう場所が見つからない。

もう、ここまできたら

マンションまで行っちゃった方が

良いかな〜、なんて思ってると。

小さな公園が目に入り

屋根付きのベンチが見えた。

とりあえずそこへ飛び込んで

荷物を下して一息吐いた。



ハンカチで水気を拭いながら

空をちらっと見上げると

当分は止む気配がなさそう。

どうしようか、と。

このままここで止むのを待つか

それとも走って帰るのか。

考え込んでみて、はたと気づく。

無意識にも私は彼の元へ

“行く”じゃなくて“帰る”って

そう言葉が出た。

そのことに気づいてしまって

何だか急に焦ってしまうというか

・・・恥ずかしいというか。



一人あ〜、とか、う〜とか

妙な呻き声をあげながら

悶えていると・・・。







「・・・・・・何やってんだ」



『っ、きゃぁああああ!!』



「お前、何て声出しやがんだ!?

周囲に誤解されんだろうが!!」



『だ、だだ、だってぇ・・・』







真後ろから急にかけられた声に

驚いてあげた声が

辺りに響いたのは自分でも分かった。

それに、その声の持ち主も。

だからこその驚きで

しかもあんな姿見られてしまったし。

もう、泣きそう・・・。







『うぅ・・・どうしたの?』



「それはこっちの台詞だ。

何こんなところで油売ってんだ」



『違うもん・・・雨降ってきたから

ちょっとだけ雨宿り、って・・・』



「あのな、こんだけ降ってんだぞ?

止むの待つより走って俺ん家に

来る方が早えだろ」



『・・・ここに入ってから

私も思ったよ・・・』



「はぁ・・・・・・・・・ほら」







苛立ち気味に差しだされたのは

何てことはない1本の傘。

コンビニなんかでよく売ってる

あのビニールの傘だった。

今彼が使ってる分と

私に差しだしてる分と。

2本の傘を見比べて

彼がここへ来た理由・・・。

もしかしなくても、そうなのかな?

スーツの上は脱いでるけど

ネクタイは緩めたままついてるし

衿元が濡れてるのは、汗?

私に声をかけた時に見た

一瞬だけど安心したような表情。







『・・・ありがとう・・・』



「・・・お前が遅えんだよ」



『うん・・・ごめんなさい』



「・・・さっさと帰んぞ。

腹減って仕方ねえからな」



『あ、今日ね、お肉が安くてね

牛肉一杯買ったからカレーにするね』



「ああ・・・何でも良いから

早く食わしてくれよ」



『うん!頑張るね!!』







二人で傘をさしながら

スーパーの袋を1つずつ持って

彼のマンションへ向かう。

並んでこんな風に歩くことって

あるようで今までなかった。

いつもは車だし、歩く時は

いつもこの道を一人で歩いてた。

だからかな・・・

何だか今日はとっても嬉しくて

他愛のない会話も弾んでしまう。







「あんま、俺を待たせんなよ?」



『うん、ごめんね?

急いで晩御飯も作るからね』



「まあ・・・俺の我慢の限界がきたら

晩飯の代わりにお前を喰うだけだ」



『えぇえ!?な、何で?

っていうか、私は食べられないし

空腹は満たされないよ!!』



「やかましい・・・

喰われたくなけりゃあ

さっさと飯、作るんだな」



『ぅ・・・た・・・た・・・』



「ああ?」



『っ・・・た、食べられたくない

わけじゃない・・・もん』



「・・・・・・言ったな?」



『っ!?で、でも・・・あのっ

ば、晩御飯の用意が・・・』



「気が変わった。

帰ったら即効お前を喰う」



『きゃっ・・・あ、ちょっ・・・』







スーパーの袋を腕に引っ掛けて

私の空いた手を急に掴んで。

そのままぐいぐい引かれながら

前を歩く彼を見つめた。

私の為に来てくれた。

私のことを待っててくれた。

私だけが想ってるわけじゃないって

想い合えてるって思えたよ。



見えてきたマンション。

部屋に入ったら・・・

まずはお風呂で温まりたいって

お願いしないといけないな、って。

強く握られた手を見つめながら

考えていた。







〜END〜



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