牛蒡夢

□始まりの決定打
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『何でって・・・

・・・初めて会った時、覚えてる?』



「ああ・・・お前が

追突してきたんだったな」



『な、ち、違うもん!

ぶつかっちゃっただけで・・・』



「似たようなもんだろ」



『そう、だけど・・・』



「・・・それで?」



『あの時、自分の星とか家族とか

全部壊れて失くしちゃって

しかも、無理やり連れてこられて。

それでも、帰る場所もないし・・・

流されちゃおうかなって

そう思ったけど・・・でも・・・』



「・・・逃げたのか」



『うん・・・逃げたって

この星から出られないのに、ね。

でも、私を連れてきた人が恐くて

この星の人達が恐くって・・・

もう、周り全部が恐くって・・・

でもね・・・バーダックは、違ったの』



「え・・・」



『ぶつかって、支えてくれた

あの腕の温かいのとか

私を見下ろしてた瞳とか

・・・恐さはなくって

思わずね、見惚れてしまったの』







そう少しの照れを含みながら言う

ミルクを見つめ。

俺自身もあの瞬間を思い出した。

俺もコイツに魅入ってしまった。

この容姿に、この纏う空気に

すぐに惹かれた。

あの時は気づかなかったが

一目惚れってやつだな。







『その後、私を助けてくれて

ここに置いてくれて・・・

たくさん優しさをもらって

愛情ももらって・・・

好きにならない方がおかしいよ』



「・・・恨んでねえのか?

サイヤ人を」



『・・・否定しちゃったら

嘘になる、けど・・・

でも、全部壊されたのはサイヤ人だけど

今私に生きる希望を与えてくれてるのは

バーダックだから・・・

バーダックが考える程も

恨んでないと思うよ』



「・・・・・・」







素直なコイツらしい返答に

思わず抱きしめていた。

俺は自分のしていることや

サイヤ人であることを

誇りに思っている。

例えどんなに憎まれ恨まれようと

俺は俺で良かったと思っている。

でも・・・ミルクのことは

唯一、不安があった。

サイヤ人であるが故に

俺を俺としては見れないのでは。

今俺に向ける言葉や想いは

現状に惑わされているだけで

本心ではないのでは、って。

そんな風に思ってしまっていた。



だから・・・今のコイツの言葉は

俺の中にあった蟠りを消してくれた。







『バーダック、は?』



「ん?」



『・・・私、で・・・良いの?』



「あ?」



『私は、戦うこともできないし

何の強さもないし・・・

こうして、傍にいることしかできない。

あ、でも、ご飯を作ったり

お洗濯したりはできるけど・・・

でも、それだけだし・・・

待ってることしかできないよ?』



「・・・それで良いんだ」



『え・・・あ!』



「それだけで、充分だ。

お前が戦えねえのも

弱えのも・・・全部分かってんだよ。

だから、俺が守ってやる

俺が傍にいてやんだよ」







そう・・・俺にないものをお前が

お前にないものを俺が。

互いに互いのないものを

与えあい支え合い。

こういうのを・・・何て言うんだ?

そうしてずっと一緒にいれば

感じてた孤独感もなくなるんじゃねえか?



あ・・・そうだ。







「ミルク」



『なぁに?』



「・・・俺たちはどう頑張っても

一つになんてなれねえ」



『・・・うん』



「だから全部を拭えねえけど・・・

いつでも互いの存在を感じれる

いつも一緒にいるって感じれる

そんなもんが一つある」



『え・・・何なに?』







腫れた目元が痛々しいが

それでも何の疑いもない

そんな素直なコイツが

やっぱり愛しくて仕方がない。

どんなに想っても

どんなに想われても

もう、手離してなんてやれねえ。



だから、手元に置いて

ずっと想い続ける。

片時も離れない

いつだって隣りにいて

守ってやる。

そんな誓いの証である、唯一のもの。







「お前のこれからの時間

お前の生命を俺にくれ」



『え・・・』



「代わりに、俺の生命も

一生を全部お前にくれてやる」



『ぁ・・・ぇ・・・?』



「・・・意味、分かんねえか?」



『・・・分かんない』



「ちっ・・・分かれよ、ったく」



『ぅ・・・だってぇ・・・』



「っ・・・言葉にすんのは

用意してからって思ったが

・・・まあ、いいか」



『え?用意って・・・』







こんな時くらい

お前の瞳を真直ぐ見て

ちゃんと言葉にしてやる。

ただし、嫌だっつっても

聞かねえからな。

お前に、もう拒否権はねえ。







「・・・結婚すんぞ」



『・・・・・・・・・・・・え?』



「だからっ・・・俺の嫁になれ」



『っ・・・ぅ・・・』



「ん?おい、聞いて・・・」



『う・・・ふぇええ〜・・・ぅ、う』



「!?何、泣きやがんだよ」



『う、嬉しぃ、よぉ〜・・・』







ガキみてえに泣きだしたミルクが

あまりにも幼くて。

でも、愛しくて

馬鹿みてえに可愛い。

泣きじゃくる様を見ながら

思わず笑っちまって。

ガキをあやすみてえに

頭と背中を多少雑に撫でてやりながら。



こんなお前の為に

ちゃんと、とびっきりのもんを

用意してやるよ。

お前が喜ぶような・・・結婚指輪をな。








〜END〜


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