ワンドオブフォーチュン

□それは必然と分かっていた
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眼前に広がる煌めく湖畔を見つめ

ゆるりと隣りへと視線を移す。

傍らでは真剣な表情で

文字の羅列を追う少女。

魔法だけが全てだった俺を

変えてくれた・・・

そんな、特別で、大切な人。



俺達が時空を超えて

歴史的にも名高い大戦に

否応なしに巻き込まれ

現代へと戻ってから

気付けばもう一ヶ月が

過ぎようとしていた。

遥か遠い昔のように思えて

でも、つい先程のように

鮮明に記憶の中から

呼び起こすこともできる。

俺にとって大きな意味を持った

あの出来事から

もうそんなに経つのかと

少女の可愛らしい

悩ましげな表情を見つめ

ぼんやりと考えていた。







「ねえ、ユリウス。

ここなんだけど・・・」



「・・・・・・」



「・・・?ユリウス?」



「ユリウス?ねえ・・・ユリウス!」



「!え、な、何?」







くるりと大きな瞳を向けられて

ああ、可愛いなぁ、と。

艶やかに潤う唇が動く様を見て

ああ、柔らかいんだよなぁ、と。

ふわりとしたピンクの髪が揺れて

ああ、甘い香りを感じたいなぁ、と。



そんな不純な欲に塗れた心で

一心に見つめていた為

呼ばれていたことに気付けなかった。

我に返って急いで返事をしてみたけど

彼女は頬を膨らませて怒っている。

ああ、そんな顔も可愛いよ。

なんて思えてしまって

思わず頬が緩みそうになるのを

必死に堪えた。







「何、じゃないわよ。

どうかしたの?ぼんやりして」



「え・・・」



「あ、もしかして疲れてる?

ごめんなさい!

私、全然気づかなくて・・・」



「ち、違うよ!

大丈夫だから、ルル」



「でも・・・」



「本当に大丈夫だから。

ごめん・・・ぼんやり、してた、のは

・・・ルルを、見てたからなんだ」



「え・・・私?」



「うん・・・

君の大きな瞳は吸いこまれそうな程に

綺麗で可愛いなとか

俺の名前を呼んでくれる唇は

触れるととっても柔らかいこととか

ふわふわの髪に顔を埋めると

お菓子みたいに甘い匂いがするなって

いろいろ考えてただけで

疲れてるとか調子が悪いとか

そういうことは全然ないから・・・」



「え、ちょ・・・ちょっと、待って!!」







彼女に要らない心配をかけたくなくて

何とか安心してもらおうと

言葉を精一杯並べてみると

急に彼女が大きな声を出して。

ふと見ると

彼女は真っ赤になっていた。



あ・・・可愛い。



いつもは白い肌が

仄かに赤くそまっていて

何というのか・・・

とても、美味しそう。







「どうしたの?ルル」



「・・・ダ、ダメ」



「ダメ?って・・・何が?」



「っ・・・そ、それ以上

・・・言っちゃ、ダメ」



「・・・」



「は、恥ずかし、くて・・・

死んじゃう、わ・・・」







そう小さく呟いた彼女は

両手で真っ赤な頬を覆っていた。

本当に恥ずかしいのか

視線が泳いでいて

瞳も潤んでいた。

そんな風に恥じらう彼女が

もうどうしたらいいのか・・・

可愛くて、愛しくて

意味がわからない。







「・・・ごめん、ルル」



「え・・・きゃっ」



「ごめん」



「ユリ・・・んっ!」







堪らなくて、抑えられなくて

意味のない謝罪を口にしながら

彼女の華奢な体を抱きしめた。

可愛らしい驚きの声をあげて

俺のシャツをキュっと掴む

その白く小さな手。

再度告げた謝罪は

彼女にというよりも

無意識に近かった。

さっきから触れたくて堪らなかった

可憐な唇に自分の唇を重ねた。

瞬間香る甘さと

唇から伝う温もり。

これ程に幸福感を味わえるものはない。



もっと、もっと・・・もっと。

欲は尽きることなく

どんどん溢れ出てくる。

このままずっと触れていたい。

そんな想いと共に

彼女をもっと感じたくて

重ねる口づけを深めて

僅かな隙間からそっと入り込み

逃げようとする舌を絡めとる。

更に深くなる口づけに

彼女も俺も互いのことしか

考えられなくなっていく。







「ん、んっ・・・ぅ、は、ぁ・・・」



「・・・ん・・・ルル」



「ぁ、あ・・・ユ、リウ、ス・・・」







甘い吐息を漏らす中に

掠れるように互いに名を呼び合う。

それだけで、熱が増して

青々とした草の上に

彼女を横たえた。

そして覆うようにのしかかり

また、唇を重ねた。

求めて、求めて

尽きない欲と想いに

もう自分でも止められない。





だって、こうなることは

必然なんだって

君も知っていただろ?

あの日、初めて体を重ねた夜から

俺は君を欲して止まないんだ。

だから、君を手に入れてしまった今

溢れる欲を抑えられなくなると

分かっていたはずだ。

だから・・・ねえ、ルル。







「・・・ごめん・・・諦めて?」



「っ・・・そんな・・・

表情で言うなんて・・・ズルイ」



「ルル・・・」



「大丈夫・・・ユリウスなら

・・・何でも、いいの」







彼女の心の広さに感謝しつつ

俺は彼女のブラウスのボタンを

性急に外しながら

口づけを再開した。









〜END〜


 

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