落乱

□貴方の手中に堕ちるまで
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部屋へ入るなり

いきなり壁に体を押しつけられ

私の顔の両横に両手をつかれ

逃げられなくされてしまった。

そんな状態と見た事のない

雑渡さんの只ならぬ様子に

私は戸惑うばかり。







『あ、あの・・・雑渡、さん?』



「ねえ、忙しい私のことを

気遣ってくれるのはありがたいけど

・・・それ以前にね」



『・・・はい』



「休む間も寝る間もない私が

どうして、体を休めることよりも

仕事のちょっとした合間を縫ってでも

わずかな時間であっても

桜に会いに来てるのか

・・・その意味を考えたことはある?」



『え・・・意、味?』



「そう」







問われても分からない。

この質問の意味・・・

どうして私に会いに来るのか?

そんなこと、私が知るはずがない。

っていうか、何でこんなことに

なってるのよ!!

こんな壁に追いやられて・・・

あ、これってあの壁ドンじゃない!?

憧れの・・・って、あああ〜!!

そんなこと考えてる場合じゃないのぉ!!



若干、いや・・・かなりパニックになり

もうどうしたら良いのか分からず

この近距離にもいよいよ耐えられず

男性への免疫があまりない私には

いよいよ限界がきたようで。







『も・・・・・・り・・・』



「え?」



『ふ、ぇ・・・もう・・・

無理ですぅ・・・ぅ、ふえぇん!!』



「え、ちょっ、桜?!」



『っく・・・だって・・・

そんな、の・・・分かりま、せ、んっ

うう・・・何で・・・

雑渡さん・・・ひっく・・・

私の、こと、構ってくれるんですか?』



「・・・・・・」







涙ながらに尋ねても

答えが返ってこないことに

不安が募っていく。

そもそも、異世界から来た

怪しい人物を匿ってくれて

毎日気にかけてもらって。

そこまでしてもらってるのに

何故、気にかけてくれてるのか、より

まずは迷惑をかけていることへの

謝罪と感謝が先のはず。

雑渡さんも呆れてる、よね。



また、じわりと視界が滲んだ時。

ぽふっと何かに包まれた。

温かくて安心できる

大きくて、体に回されている

逞しい、腕?

と、そこまで気付いて

私は抱きしめられていることに

やっと気付いた。

そして、誰が?

なんて思ったけど

相手なんて、今まで目の前にいた

彼に他ならない。







「桜」



『ぅ・・・・・・ぁ・・・は、い』



「くくっ・・・変な声出して

・・・ははっ、本当に

面白い子だね、桜は」



『ふ、ぇ?』



「面白くて・・・

誰にでも分け隔てなく接して

愛想も良いし、笑顔も明るいし

皆に声をかけてもらってて

・・・最初に懐いてくれたのは

私だったのに、いつの間にか

皆にも懐いてる・・・

それが、気に食わないね」



『ひ・・・ご、ごめん、なさぃ』



「全く、毎日毎日、こうして会いにきて

少しでも多く桜との時間を

作ろうと必死なのに・・・

まさかの相手からは

仕事のサボリ発言されちゃうし」



『いえ、あの、それは・・・』



「こっちの気持ちなんて

全然気付いてないし・・・

報われないったらないね〜・・・本当に」



『す、すみませ・・・・・・・・・

・・・え・・・・・・気持ち、って?』



「ん?ここまで言っても

まだ、分からない?」







分からない?・・・分からない。

だって、そんなこと

あるはずない。

だって、忍組頭で

その腕はまさにこの世界一と

言われていて

歳上だし・・・私よりも

ずっと大人だし。

私みたいな容姿も何もかも

秀でたとこなんてない小娘

相手になんて、するはずないじゃない。



熱い頬をそのままに

言葉を発せずにいると

そっと雑渡さんの大きな手が

私の頬に触れた。

驚いて顔をあげると

先程以上に雑渡さんの顔が

間近に迫っていた。

互いの呼吸が混じり合う程に。







「ああ・・・可愛い。

すごく可愛いよ、桜」



『っ・・・や、やめて、ください』



「こんなに真っ赤にして

震えちゃって・・・

本当に、可愛いね」



『・・・やぁ・・・』



「ふっ・・・ねえ?

このまま食べてしまいたいよ」



『ひっ・・・!?!!』







怪しい雰囲気に呑まれそうになり

一層距離が縮まりそうになった。

すると・・・。







「組頭ぁ〜!!

組頭、どちらですかぁ!!!」



『ぁ・・・諸泉さん』



「・・・・・・・・・ちっ」



『ぇえっ!?い、今、舌打ち・・・』



「ん〜?気にしない、気にしな〜い」







先程とはまた違った不穏さを

その身に纏って

未だ雑渡さんを呼び続けている

諸泉さんの元へと向かい始めた。

今までのやりとりで

緊張していたらしく

一気に体の力が抜けてしまい

その場にへたり込んでしまった。

一つ小さく溜息を吐くと同時に

勢いよく腕を引かれ

そのまま立たされた。

そして、目の前にいるのは

部屋から出て行ったはずの

雑渡さんだ。







『ざ、雑渡さん・・・あの・・・』



「・・・長期戦でいくつもり

だったんだよ?

今日会いに来た時は」



『な、何の、お話で、しょうか・・・』



「ふ〜ん、あくまで

知らないふりをするつもりか。

そっかそっか・・・」



『だ、だから、ですね・・・

わ、私は・・・』



「じゃあ、逃げてみなよ」



『へ?』



「逃げれると思うなら

とことん逃げ続ければ良い。

私の想いも知らないふりして

逃げぬいて見せてよ」



『っ・・・そ・・・』



「くすっ・・・

せいぜい頑張りなさい」







ぐっと顎を掴まれたと思ったら

唇に何かが押しあてられ

間近にある雑渡さんの顔を見つめ

口づけられていることが分かった。

固まる私に抵抗なんて

できるはずもなく

雑渡さんは最後に

私の唇をテロリと舐めて言った。







「逃がしやしないから

覚悟しておくんだね」












〜終〜


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