落乱

□名づけるなら、それは・・・
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「もう一度聞く・・・

お前は何者か、真実を話せ」



『っ、ですから・・・

今話したことが、真実なんです!

私も、事態が呑み込めない・・・』



「・・・はぁ〜・・・」







連れ帰った女に

とりあえず何か着せようと

山本を呼んで対応させた。

それから目が覚めるまで休ませ

その後に、話を聞くことにした。

今のところあくまで穏便に

事を運ぶことを考えてはいる。



そして、目が覚めた女に

事情を聞き出そうとしたのだが・・・。

どうも話し方や様子

何より話の中身が可笑しい。







「じゃあ、お前は今よりも

ずっと未来から来てしまった・・・

そして、どうしてこうなったかは

原因が分からない、と」



『はい・・・』



「・・・俄かには信じ難い話だけど」



『・・・信じて頂けないことは

私自身がよく分かっています。

私だって、信じられないんです』







彼女を見つめながら

どうするか考えていた。

くの一ではないようで

何か武術に長けている訳でもない。

それは最初に二言、三言

会話すればすぐに分かった。

だから、本来であれば

普通のどこかの村娘か・・・と

なるはずではあった。

しかし、目の前の彼女は

この時代の人間ではないという。

自分は遥か未来から

この時代へと飛ばされてしまったと。

そんなことを言われて

はい、そうですか・・・なんて

信じるわけにはいかない。



ちらりと目の前の彼女を見つめると

不安げに、瞳を揺らしながらも

私と視線を合わせた。

その瞬間、ゾクリとした

何とも言い難い色を多分に含んだ“快”が

背を一気に走った。

小さく喉を鳴らし

彼女の頤を掬いあげ

視線をより明確に合わせた。







「・・・名前は?」



『ぇ・・・わ、私、の?』



「他に誰がいるの」



『ぁ・・・桜、です』



「そう・・・桜。

君が話したことを

全て信じることはできない。

私には城と殿、部下を守るべき責任がある」



『・・・はい』



「だが、君が嘘を言っていると・・・

どうしてもそうは思えない」



『っ・・・え?』



「この仕事をしているとね・・・

人を欺き、相手の意に添うように

思わせ騙し・・・

人の本質を見抜かないといけない。

だからこそ分かる・・・

君のその瞳は嘘は言っていない」







私の言葉に目を見開きながら

息を飲んで、ただじっと見つめてくる。

澄んだ瞳に映る自分の姿を見て

すっと目を細めた。







「行くところはないでしょ?」



『・・・はい』



「ここに居て良いよ」



『え・・・!?』



「く、組頭!何を・・・」



「ここに置いてあげるから

私を信じさせてみてよ」



『信、じ・・・させる?』



「そうだよ。

嘘は言っていないと分かっても

それが信じることには繋がらない。

だから、ここでの君の暮らしぶりを見て

信じられるかどうか・・・」



『・・・』



「ふっ・・・楽しみだな〜」







ああ・・・本当に楽しみだ。

明日が楽しみだなんて

久しぶりの感覚だ。

隣で小さく溜息を吐く山本は

とりあえず見なかったことにして。

明日からの桜との生活に

色々と想いを馳せながら

戸惑う桜を見つめ

また、笑みを張り付けた。









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