落乱

□名づけるなら、それは・・・
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あれから数日。

あっという間に彼女は

城の者達に馴染んでいった。

そもそも、何の敵対心もなく

普通の女の子なんだから

何も警戒する必要はない。

むしろ、男所帯の中に

華やかさが出たようにも思う。







「いやいや、女中もいますし

何も女はあの子だけじゃないですから」



「そう?・・・ん〜・・・」



「でも、本当にいい子ですよね

桜ちゃん」



「そうなんだよね」







庭で掃除をしている彼女を

尊奈門と一緒に見つめていた。

もう、彼女を疑う者はいないし

未来から来たというのも

半信半疑ながらも

大まかには信じることにした。



だが・・・私には

そんなことよりも

もっと別の感情が生まれた。

いや、生まれたのではない。

きっと、彼女を見つけたあの時から

私の中で沸々と大きくなり始めた。

それは、何とも形容しがたい感情。

感情・・・違うな。

それはもっと醜悪で

酷くどろどろとした暗い、欲だ。







『あ、雑渡さん』



「よく頑張るね〜。

君は客人なんだから

こんなこと尊奈門に

任せてたら良いんだよ?」



「なっ!?組頭〜っ!」



『いえ・・・私は、居候、ですから』



「・・・ふ〜ん」



『ここに置いて頂けるだけでも

感謝しきれないのに・・・

ここの皆さんが私のことを

受け入れて下さって

感謝してもしきれません』



「そんな大げさに

思わなくても良いんだけど」







彼女のこの謙虚さも好ましく

かなり自分に自信がないようで

そこを突いて遊ぶのも

最近では楽しみの一つ。

なんだかんだで

私のお気に入りの一つとなった彼女。

それはお気に入りの玩具という

そんな感覚と思い込んでいた。

初めは・・・。

でも、そうではない。

私は、彼女を少なからず

玩具や女の子ではなく

“女”として見ているようだ。



あの、隠し切れていない魅力。

卑猥さを滲ませるあの体に触れたいと

そう欲してやまない。

他の男はそんな風に思わないのか・・・

それとも私がどこか可笑しいのか。

まあ、どちらにせよ

彼女を口説くのはもう少し先だ。

今はまだ、時期を窺い

待たなくてはいけない。



そう・・・その時期は

彼女が私へ一歩歩み寄り

想いの片鱗を表した時。

それは、もうすぐそこまで来ている。







「桜」



『はい、何でしょうか?』



「これ」



『?・・・わぁ!お団子』



「美味しいと評判らしくてね」



『わ、私に、ですか?』



「だから、渡したんでしょ」



『っ・・・あ、ありがとうございます!』



「いいえ」



『あ、あのっ』



「ん?」



『わ、私一人では食べきれないので

よければ・・・一緒に、食べませんか?』



「え?桜に買って来たんだよ?」



『・・・雑渡さんと一緒に食べた方が

きっと、美味しいかなって

思ったんですけど・・・』



「・・・」



『い、忙しいですよね!

す、すみませ・・・』



「じゃあ、お茶の用意をさせるから

縁側で食べようか」



『え・・・良いんですか?』



「せっかくのお誘いだからね。

断るのはもったいないよ」



『ありがとう、ございます』







ああ・・・その笑顔。

私だけのものにしたい。

こんな風に独占欲が生まれるなんてね。

執着も何もかも

もう持ち合わせてはいないと

そう思っていたんだけど。

どうやら、桜限定で

私はかなり執着心と独占欲が強いみたいだ。

だから、必ず君を手にいれるよ?

例え私の手を拒もうと

必ず私のものにする。



君に忌み嫌われたとしても

その目が他を映さないように

その耳が他の声を聞かないように

その手が他を求めないように

その足が他へと行かないように

桜の全てを奪って

私が一生傍で愛でてあげるから・・・。

だから、安心して

私の許へおいで、桜。





















(いっそ二人だけの

世界が造れたなら・・・

そんなことさえ思う私は

狂っているのかもしれない)





〜終〜


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