落乱

□報われない恋の話
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『好き、です』



「うん・・・私も好きだよ」







そう、好きだよ。

ずっと、君のことが好きだった。

朝起きたら、君のことを想って

昼も君の姿を目で追って

夜寝る前には君の一日を思い返して。

君と話した会話の数々を

夢の中でも思い返して

君の笑顔に癒され、幸せをもらって。

君を想うだけで

私はこんなにも幸せになれる。

それ程に君のことを、愛しているよ。



ねえ、例え・・・

例えその“好き”が

私に向けられたものではなくても。

それでも、今君がその言葉を

投げかけたのは私に対してだから。

その言葉を受け取って良いのも私だけ。



目の前にいる君の瞳も

言葉も、伸ばされた手も

全部、私に向けてくれてる。

ああ・・・好きだ。

堪らなく好きだ。

早く、君を私のものにしたい。







『好き・・・』



「私もね、好きだよ・・・

いや、愛してる、かな」



『・・・大げさですね』



「そうでもないよ」



『告白したのは私なのに

・・・私以上に大きな気持ちで

返されてしまいました』



「はは・・・それは関係ないよ

大体、人の気持ちなんて量れないでしょ。

大きさも、形も、意味も」



『・・・・・・・・・そうですね』







そう。

人の気持ちなんて分からなくて当然。

だって、目の前のこの人は

私が好きで告白したわけではないって

知ってるのに・・・

それなのに、返されてしまった。

“愛してる”だなんて

重すぎる言葉で。

言葉だけなら良い。

でも、彼から返される言葉に

そこに乗せられた想いの重さは

私が一番良く知っている。

いつだって飄々としている彼だけど

私に対してだけはいつも本気。

良いことも、悪いことも

全てにおいて彼は本気で

私にぶつけてくる。

私が受け取れるかどうか

そんなことお構いなしに。



瞳に映しているのも

言葉を紡ぐのも

手を差し伸べているのも

どうして・・・この人に対してなの?

私が本当に求めるあの人は

どうして、どうして・・・。

ねえ、どうして?

どうしてなの?

どうして・・・。


















































どうして・・・

私の足元に転がっているの?

そんな風に血まみれになって

暗い瞳に何も映さないで。

どうして?

どうして、私は今

そんな想い人に刀を向けているの?

・・・違う。

突き刺さった刀を抜こうとしてる。

きゅっと刀を握った手を振り上げて

一気に抜くと血潮が吹きあがり

あっという間に私も、目の前の彼をも

真っ赤に染め上げた。







「ああ・・・赤い色

とってもよく似合ってるよ」



『・・・私、赤い色、嫌いなんです』



「そうなの?」



『はい・・・だから・・・

赤く染まったこの人は

・・・もう、私の好きだった

彼ではないんです』



「ふ〜ん・・・

じゃあ、今赤く染められた私は?」



『・・・今の貴方も好きではありません』



「赤ってだけで

さっきところっと変わっちゃうんだね」



『・・・それだけ重要なんです』







左程重要でもないのは、知ってるよ。

嫌いな赤に染まることで

自分も私も許さないで

そして、そこに転がる男のことも

もはや自分が想いを向けるに値しないと。

そう思うことで

君は全てから目を背けるんだね。

良いよ?

自分の心を無理やり壊して

作り上げた歪なままの想いを

自分の真実として語る

愚かで愛しい君を

それでも私は、愛しているんだ。






「これから、大事にするからね」



『・・・私が、この刀を

貴方に向けるとは思わないんですか?』



「思ってるよ・・・

でも、好いた女に心臓を貫かれる

・・・なかなか一興だとは思わない?」



『・・・狂ってますね』



「・・・君には言われたくないね」



『・・・私をどうするつもりですか』



「ん〜、そうだね・・・

とりあえず・・・」







君の嫌いな赤に染まった手で

同じ赤に染まる君の頬を撫でた。

ぬるりとした感触に

でも、赤に垣間見える君の白い肌が

なんとも淫靡で官能的で。

何だか見てるだけで

達してしまいそうになっちゃったよ。

君の冷たい瞳が闇に染まってるのも

堪らなく美しく、魅かれる。



さっき言ったことも、本心だからね?



君に心の臓を貫かれるのも

私の悦びに成り得てしまうんだ。

だから、ね。

どう足掻いても

もう、君は私からは逃れられない。

最初に君が私にあんなことを言ったから

こんな私に捕まってしまうんだよ。







「私の目にしか触れない所で

一生私だけが愛してあげるよ、桜」







初めに告げた“好き”という言葉。

そこに私も想いをこめた。

決して許さない、と。

貴方の命を必ず奪ってやる、と。

私の心から想っていたあの人を

この世から葬ったことで

私の心を殺したことを。

その罪深さを知って

その身をもって償うのだと。



頬に触れる手が

ゆったりと頤を掬って

私を上向きすると

噛みつくような口吸いをされた。

口内を這いずりまわる舌の感触に

何となく気持ち良さを感じつつ

今はもう動かない想い人だったものの上で

私は殺意と欲情を綯い交ぜにした

剥き出しの感情を

その唇に乗せて、私からも噛みついた。












〜終〜


 

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