final fantasy

□悲哀の奏を捧ぐ
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滲む視界で

湖畔をたゆたう

男の背を見つめた。

腕に抱いているのは

ほんの少し前まで

花のような可愛らしい笑みをたたえ

柔らかな声で話しかけてくれた

私にとって、皆にとっても

大事な仲間。

けれど、その彼女を抱きしめる

あの男にとっては

私達の言う大事とは

また違う意味で大事だったはず。

それは、私達に対するものとは違う

特別な感情だったんだ。



ゆったりとした動作で

水面に彼女を浮かべ

腕を離す刹那。

彼女の安らかな寝顔に

影をさして近づく男の顔。

恋人間で交わされるものとは

似て否なるもの。

まるで・・・神聖なる儀式のようで。

とめどなく溢れる滴が

つられて溢れ続ける。





たび重なった戦闘に

皆身体的に、何より精神的に

疲弊してしまっている。

今夜は忘らるる都にて休むことになった。

皆離れすぎない程度に

各々寝場所を見つけ

既に休んでいる。

・・・あの男は

湖から離れずに

岸辺に座り込んだままだ。

湖の見える一番近い家に

入り込んだ私は

そんな男の姿を見つめたまま

寝付けずにいた。



目を閉じると・・・

浮かぶのは

彼女の笑顔。

最後まで・・・最期まで

柔らかなあの笑顔だった。

何を思ってあの場所に来たのか

何を願ってあの場所で祈っていたのか

何を・・・何で?どうして?

今は・・・

何も、知りたくない。

考えたくない。

でも・・・でも・・・

行きつくのは



ナゼ カノジョガ

シナナケレバ ナラナカッタノ?



気づけば涙がまた流れて。

目元はジンジンと熱を孕んで

溢れる滴が沁みて。

それでも、止められない。

止めて、この無限のループから

抜け出したいのに。

手元にあるシーツを手繰り寄せ

力任せに握りしめた。

涙を止めない代わりに

決して声だけは漏らさないように。

それだけは、絶対にダメだと

自分に言い聞かせて。

皆堪えているのだから。







ヴ「・・・何故、堪える」



ユ「!?・・・勝手に、入ってくんな」



ヴ「・・・堪える必要はないだろう」



ユ「っ・・・う、るさいっ・・・

私が何をどうしようが

アンタに関係ないだろっ!!」



ヴ「・・・ああ・・・

私には関係ない。だが・・・

そういうお前の姿を

悲しむのは他でもない

“彼女”なのではないか?」







何を言いたいのか・・・

分かってる。

でも・・・。

それでも・・・。

だって、きっと

一番、そうしたいのは

私じゃなくて

皆なんかじゃなくて。

今もあそこで

あの場所で

ただ、静かに眠りについた

彼女の一番傍にいる

アイツなんだ。







ユ「私が・・・そんな、こと・・・」



ヴ「悲しみの重さなど誰にも量れない。

だからこそ、できないあの男の代わりに

お前がそうしてやればいい。

堪えることが良策とも

間違いとも言わないが。

だが・・・そうしているお前は

私の目からも、とても

痛々しく見えてしまう」



ユ「っ・・・う・・・」



ヴ「・・・ソレも

彼女への弔いになるだろ?

私は、そう思う」



ユ「ぅ、あ・・・あ・・・

ぁああああああああっ!!」







堰を切ったように

喉が掻き切れそうな程に。

ただただ、悲鳴のように

叫んだ。

悲しみや怒り

哀しみや悔しさ

どうしようもない、今更。

こんな風に泣き叫んでも

この想いを受け止めて欲しい

彼女はもう、いない。

そんな私の心を見透かしたかのように

私に『泣く』許しをくれた男が

そっと私の体を包んだ。

見た目からは想像もつかない

その優しい腕の中は

私の悲しみをより煽って。

行き場のなかった手は

目の前のその男に縋りついて

全てをぶつけるように

その哀しくも優しい腕の中で

一晩中泣き続けた。





泣けないアイツの為に

寄り添うことのできない彼女の為に

悔恨に苛まれる皆の為に

そして、私を許してくれたこの男の為に

何よりも、自分の為に。

私は悲痛にも聞こえる

カナシミの歌を叫び続ける。

今はまだ、それ以外何もできない。













〜END〜


 

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