final fantasy

□病に似て否なるもの
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彼女はいつも

あの、青い空を見上げている。

作り物の光と景色しか知らない

そう言った彼女は

全てを記憶しようとするかの様に

どんな小さな物も

どんな些細な景色さえも

その瞳に映そうとする。



そんな彼女だから

傍について見ていてやらないと

そう思った。

なのに・・・。







「私、アオ色、好き」



「青色、が?」



「うん。・・・だって、ね

・・・何だか、彼を、ね・・・

思い出す、から」



「・・・・・・」







彼女の言う彼とは

以前話していた

初恋の男のことだろう。

今はどこにいるのかさえ

分からないという

そんな男のことを

彼女は未だに忘れずにいる。

現在進行形というわけではないだろうが

過去形というわけでもないのだろう。



俺には関係ない。

そう思っているはずなのに。

何故だろう。

その男の話を楽しげに語る

彼女の笑みが

切なげに揺らす瞳が

無性に苛立たしくて仕方がない。

ムカムカする・・・イライラする。

胸の辺りが痛んで苦しい。

何だ?コレは。

わけが分からない。







「?どうしたの?クラウド」



「・・・別に」



「そう?ねえ、もう、宿、戻ろっか?」







そう言って宿へと足を進める。

彼女との二人の時間を

自分で驚く程に楽しみにしていた。

それなのに、彼女が話したことは

初恋の男のことだけ。

しかも心底楽しそうに。

どうして・・・なんだよ。







「っ・・・エ」



「ねえ、クラウド」



「・・・何だ?」



「ん・・・あの、ね・・・

・・・ありがとう」



「え?」



「・・・私に、いろんな初めてをくれて

いろんな初めてを経験させてくれて」



「・・・それは、成り行き上、仕方なく」



「それでも!

私には、とっても嬉しいことだから。

クラウドが私の事

ちゃんと考えてくれてることも

分かってるから・・・

だから、ね?ありがとう、なの」







そう言って満面の笑みで話す彼女の

そんな姿一つで。

俺の荒んだ心はみるみる内に

水を得て潤んだかのように

満たされていった。



火照る顔を気にし過ぎて

上手く彼女へ気持ちを返せない。

それでも、その「ありがとう」を

しっかりと受け取ったことを示したくて。

無意識に離れていた距離を

意識的に詰めて細い手を握り締めた。

絡まる指はまるで

彼女に捕えられていく自分に思えるけど

未だ自分の心が、この溢れる気持ちが

上手く掴めていない内は

気づかないフリを決め込むことにした。







「クラ〜ウド?」



「・・・・・・何だ?」



「・・・ふふっ・・・うん。

私、クラウドの、その蒼がね

一番落ちついて、大好き」







ああ、今度こそ

隠しようがない程に

俺の全てが彼女に反応してしまった。

これは、ある種の病気かもしれないな。










〜END〜


 

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