final fantasy

□夢と現に溺れる
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この星を救う為に

彼女は星へと還って逝った。

目の前で

手を伸ばせば届く距離で

それなのに・・・

俺は彼女が長刀で貫かれる

その瞬間を

ただ呆然と見つめていた。

鈍く光を放つ刃が引き抜かれ

彼女の体が紅く染められていく。

受け止めたその体は

徐々に温もりを失い

柔らかさを失っていく。

そんな情景と生々しい感触が

今も残っている。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「っ・・・はぁ!・・・はぁ・・・」







勢いよく起き上がり

大きく息を吐く。

鮮明に記憶している夢は

果たして本当に夢なのだろうか。

滴り落ちる汗は

熱気などではなく

俺の焦りや冷えた心境を

そのまま表しているのだろう。

乱暴に汗を拭い

傍らに手をついた時。

隣りにあるはずの

温かな存在がいないことに気がついた。

触れるシーツからは

微かに温もりを感じるが

形としてそれを感じることはない。

瞬時に蘇る、あの残酷な夢。



飛び起きて家中を探す。

部屋といいう部屋を

全て開いていく。

だが、求める存在は見つからない。

リビングで呆然と立ち尽くし

もしかすると・・・

最初からいなかったのでは、と。

そんな考えがよぎる。

あの夢は夢だが、現実でもある。

俺は確かに彼女を失った。

だから、もう一度

彼女と共に歩めていた

この幸福な時間こそが幻なのではないか

ずっと、そんな風に思っていた。

だから・・・今この瞬間は現実だ。

彼女を追い求め

ずっと苦しんできた。

今はその延長だ。

そんな日々が見せた

幸福過ぎた夢だったんだ。



彼女は・・・いない。



そんな言葉が

頭の中を巡っていた時。

リビングの扉が開かれ

そこには彼女が立っていた。







「あ、もう起きてたの?」



「・・・エ、ア・・・リ・・・ス?」



「ごめんね?

クラウド、今日は出かけるぞって

言ってたでしょ?

だから、早めに起きて

家事を済ませちゃおうと思ったの」







そう言った彼女の手には

洗濯物が入った籠があり

彼女はいつもの淡い桃色のエプロンを

相変わらずの

可愛さをもって着けていた。

そのまま庭先へと下りて

洗濯物を干しだす彼女を

見つめていたが。

彼女へと伸ばしかけた手は

未だ僅かに震えていた。



俺は、何をしているのか。

俺のせいで失った彼女を

もう二度と失わない。

その為に彼女を全力で愛そうと

そう決めたんじゃないか。

それなのに・・・

たった一度の夢に惑わされ

現と夢が分からなくなるなんて

俺の心の弱さは相当なものだな。



両手で顔を覆い天を仰いだ。

大きく溜息を一つ吐くと

ようやく落ち着きを取り戻した。

どうしてあんな夢を見たのか

どうしてこんなにも惑わされたのか

それは・・・

今日という日が大きく影響したのだろう。

今日は、彼女が生を受けた日。

今日は、彼女と奇跡の再会を果たした日。

そんな特別な日だから。







「・・・ここに、いるじゃないか」



「ん?なぁに?」



「・・・何でもない。

着替えてくる」



「うん!朝ご飯作ってるね」



「ああ・・・目玉焼き、半熟がいい」



「くす・・・うん!二つ付けるね」







楽しげな声音を聞きながら

着替える為に部屋へと戻る。

今日は彼女の行きたい所へ行き

やりたいことを一緒に楽しもうと

そう決めていた。

だから、あの夢は奥底へとしまいこむ。

忘れることはできない。

忘れてはいけない。

俺への戒めでもあるのだから。

だが・・・今日だけは

奥底で静かに眠っていてもらう。

今日は只々

彼女が生まれてきてくれたことを祝いたい

そのことに感謝したい。

だから・・・

一番に言いたかったことを伝えたい。

それから、今日を始めよう。







「エアリス」



「あ、もう着替えてきたの?

もうちょっと待ってね」



「・・・エアリス

誕生日、おめでとう」



「!・・・うん!!

ありがと!クラウド」



「ああ・・・・・・

なあ、それ潰れてるぞ?」



「え?・・・きゃぁ!?

せっかく上手く半熟にできたのにぃ」



「・・・くくっ・・・

いいさ、そのまま皿に入れてくれ」



「ダメ!クラウドには

ちゃんとした目玉焼きを出すから!

もう一回焼くから待ってて」







そう言って変なやる気を出した彼女。

黄身が潰れた目玉焼きは

微妙に焦げてしまったようで

香ばしい臭いをさせている。

ああ・・・これはやっぱり現実だ。

そんな風に思わせてくれた彼女は

俺の唯一愛する女性だと

そう思いながらテーブルについた。













〜END〜


 

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