final fantasy

□鈴の音
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チリーン・・・





歩む足を思わず止めた。

今、何かが聞こえたような気がした。

耳を澄ましていると・・・。





チリン・・・





風にのり微かに

だが、聞き間違い等ではなく

確かに耳に届いた音。

小さなその音は

一定の間隔をあけながらも

俺を呼び寄せるかのように

柔らかく響いている。

意識はその小さな音に集中して

ふらふらと誘われて。

辿りついた先にいたのは・・・。







「・・・どこにいっちゃったんだろうね。

お前のご主人様」



「・・・何してるんだ?」



「あ・・・・・・うん・・・

この仔のね、ご主人様を探してるの」



「・・・迷い猫か」



「町の人に聞いてまわったんだけど

誰も知らないって」







白い毛並みの良い子猫を抱き締める

そのリディアの姿は

もはやリディア自身が

迷子になったかのような。

それ程までに不安げな表情で

俺まで胸がチクリと痛む。



彼女に倣って隣りにしゃがみ込み

その腕の中にいる子猫を

やわやわと撫でてやると

それが気持ちいいのか

小さく鳴いてすり寄ってくる。

その可愛らしさに笑みが浮かぶが

どうしてこの子猫が彷徨っているのか。

早く家を探してやらないと

もうすぐ陽が暮れてしまう。







「カイン・・・どうしよう」



「・・・はぁ・・・

今更放っておくわけには

いかないだろう?」



「うん」



「この時間なら

民家を一件ずつ回っていった方が

いいかもしれないな。

幸いこの街はそれ程大きくもないし」



「・・・手伝って、くれるの?」



「お前だけに任せていたら

明日の朝になっても

戻ってこれないだろうからな」







いつもなら言い返して来る俺の言葉にも

ただただ頷くだけの彼女は

いつもよりも一回り小さく見えて。

何となく、放っておけなかった。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「良かったね、ご主人様が見つかって」



「ああ、そうだな」







奇跡なのか、運が良かったのか

最初の一件目で飼い主が見つかった。

目を離したすきに

家を飛び出してしまったらしい。

そう時間がかからなくて

俺も安心した。



それでも陽はすでに沈んでいて

辺りは薄暗くなっている。

本当にこんな状態の中を

彼女一人にしなくて良かった。



いつもそうだ。

些細なことを見逃せず

こうして自分から

厄介事へ突っ込んでいく。

彼女にしてみれば

困っている人や動物を

身捨てることができないだけなのだろう。

それでも、彼女を心配する

俺や仲間のことはどうするんだ。

いつも口うるさく言っているが

聞き入れてもらた試しがない。

いや、分かったと言って

彼女はその多くを

理解していないのだろう。







「・・・はぁ・・・」



「?カイン?どうしたの?」



「いや・・・何でもない」



「そう?」



「ああ・・・・・・あ、そういえば。

あの子猫、お前に似ていたな」



「え・・・そう、かな?」



「ああ、少し目を離すといなくなって

何か厄介なことに巻き込まれたり

面倒なことを起していたり

周りの人間をやきもきさせたり・・・」



「え・・・そ、そんなことっ」



「ないって言えるのか?」



「うぅ・・・」







彼女も多少自覚しているのか

俺の言葉にバツの悪そうな顔をして

俯いてしまった。

軽く溜息を吐きながらも

そういう所も全部含めて彼女で

そんな厄介事を見過ごしてしまうような

そんな彼女だったなら

俺もここまで気にはならないのだろう。

そんな彼女だからこそ

俺は・・・こんなにも

心惹かれるのだと、そう思う。



二人並んで宿に向かって歩いていると

露店の前を通りかかった。

そして、何気なく

目を向けたそこには・・・。







「・・・リディア」



「え?」



「ちょっと待ってろ」



「え・・・え?」







露店の店主に掴み取った品物を見せ

さっと代金を支払うと

すぐさまリディアの元に戻った。

大人しく待っていた彼女に

先程買った代物を

細い首にそっとかけた。



チリン・・・







「え・・・?」



「お前にやるから、つけていろ」



「コレ、鈴?」



「ああ」







買ってきた物は

鈴のネックレス。

小さなブルーとグリーンの

ガラス玉と一緒に付けられている

小さめの鈴。

歩く度に、あの軽やかで

柔らかな小さな音が奏でられる。







「あの、カイン・・・」



「肌身離さず付けてろよ?

それがあれば・・・・・・

お前がどこにいようと

見つけてやれる」



「え・・・」



「お前の目印だ」



「・・・・・・うん・・・

ありがと!!カイン」







嬉しそうに微笑みかける彼女に

一瞬鼓動がドクンと大きく跳ねて

次には目の前の彼女の胸元で

小さく揺れた鈴があの音を鳴らした。





チリン・・・チリン・・・










〜END〜


 

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