final fantasy

□白と黒
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ふと目が覚めると

瞳に沁みる小さな光が差し込んでいた。

気だるい体をゆっくりと起こし

まだ眠気にぼんやりする頭で

今日の天気の具合や

航路を見直さないといけないことを

考える辺りさすがと言える。

大きな欠伸を噛み殺しながら一つ。

流れる髪を後ろへ掻きあげながら

何気なく左隣を見下ろすと・・・。

寝起きとは別の理由で

セッツァーの体が固まった。



もぞもぞと小さく蠢きながら

甘い声をもらしたソレ。

ふわりと流れる翡翠の波と

滑らかな白くまるい肩が

シーツを彩るように見えて。

少し眉根を下げながら

何かを求めるように伸ばされた

細くしなやかな腕。

若干呆然としながら

その様子を見つめていると

その腕は彼の腕に触れると

スルリと掴むのだった。







「・・・・・・って、おい」



「・・・ん・・・」



「・・・はぁ・・・

何でここにいるんだ?」







やっと正常の思考回路が戻ってくると

余計に頭が痛くなってくる。

彼の記憶が正しければ

昨夜は確かに彼女は自分の部屋を

訪ねていた。

だが、酒の片手間に

彼女がポツリ、ポツリと零す

柔らかな言葉達に

相槌と二言、三言を返して。

そんな他愛ないやりとりの後

彼女は女性陣の部屋へと戻っていった。

その後は自分も早朝から動く為に

早々に寝台へと横たわり眠りにおちた。

そこまでしか記憶がない。







「・・・酔って手ぇ出す程も

呑んじゃいねえはずだ・・・

・・・っつうか、それ以前に

いつコイツは入ってきたんだ」



「ぅ、ん・・・・・・ん」



「・・・・・・」







己が上半身裸なのは

この時期にはよくあることなので

思案の中には含まないことにして。

彼は隣りで眠る少女の衣類が

乱れていないことと

その綺麗な肌や体に

己が手をつけた

痕跡を残していないことを

隈なく見つめ穢してないことを確認した。



下手に手を出せば

彼女に過ぎる程に構う仲間達が

黙っていないだろうから。

面倒なことにならないことに

少し安堵した。



ただ・・・日頃から

分からないことがある。

彼女は度々彼の元を訪れる。

それは船内の機械室で整備中の時

それは舵をとっている時

それは酒を片手に風に吹かれている時。



彼女は最初遠巻きに彼を見ていた。

じっと、ただ見つめていた。

そんな隠しきれていない気配と視線に

音をあげた彼は

彼女を傍に置くようになった。

見ていた理由は特にないらしく

この空を走る船が面白いとのこと。

まあ、こんな純粋な瞳で

興味を持たれて嬉しくないはずがない。

それからだ。

彼女が度々訪れるようになったのは。

彼の元でただ彼を見つめるだけの時や

昨夜のように他愛ない話をする時もある。

別にソレが嫌なわけではなく

何故、自分なのか、ということだ。



例えば、あのトレジャーハンターなら

もっと楽しく言葉を

交わしてくれるだろう。

それなら、あの国王だってそうだ。

自分とはまた別で女の扱いに長けている。

それに・・・同じ女ならセリスや

あの子供もいる。

その方が話だって弾むだろう。

そう・・・俺よりも

もっと適した奴がいるのに、だ。

どうして俺の所へ来るのか。

おかげで仲間の、特に男共から

痛い視線を送られる日々だ。

まあ、手を出すなという牽制と

後は嫉妬の類だが。



物思いに耽っていると

隣りで眠る彼女が身動ぎ始めた。







「んっ・・・ん〜・・・

・・・・・・ん・・・?」



「・・・おい」



「ん、ぅ・・・・・・?・・・え?」



「はぁ・・・やっと起きたみたいだな」







ゆったりと開かれた瞳が

覚束ない様子で惑う視線を

つい、と見下ろされる視線と絡める。

差し込まれる陽光に煌めくのは

銀糸が流れる長い髪。

ぼんやりと見つめていると

呆れたような溜息が再び聞こえた。

そこで、はたと急速に頭が覚醒し

自分の置かれている状況に

更に惑うこととなってしまう。

そんな彼女に手を差し伸べ

自分と同じように体を起こした。







「・・・・・・おい」



「あ、あの・・・私・・・」



「待て・・・

順を追って聞かせてくれ。

まず、お前、いつここに来た?」



「えっ・・・ん〜・・・

セッツァーがもう休めって言って

お部屋に戻ろうと思ったの」



「ああ」



「でも、戻っても誰もいなくて・・・」



「誰も?」



「うん・・・置き手紙はあったの。

セリスはロックのところへ

リルムは他の皆と集まってるって」



「はぁ・・・何やってんだ、あいつら。

セリスはまあいいとして・・・

10歳の子供を付き合わしてんじゃねえよ。

・・・で?」



「・・・え、と・・・

それで・・・一人で眠るのは

・・・何だか、少し寂しくて・・・

お部屋に戻ってすぐだし

セッツァーもまだ起きてるかと思って」



「それでここへ来たってわけか。

だが、俺が覚えてねえってことは

ここに戻った時には俺は寝てたんだろ?」



「うん・・・でも・・・」







そこで言葉が切れ

もじもじと居たたまれない様子の

彼女の様子が

不覚にもドキリと胸を震わせるもので。

朝から何を考えているのかと

己を叱咤しながらも

彼女の昨夜の行動を聞き

やっと納得ができた。

だが、それは隣りで寝ていた状況にだ。

もっと、根っこの部分がまだ分からない。







「・・・前々から聞きたかったんだが」



「?なぁに?」



「どうして、俺の所へ来るんだ?」



「え?」



「話相手ならもっとましなやつが

ここにはわんさかいるだろ?

なのに・・・敢えて俺の所に来る

その理由を、聞かせちゃくれねえか?」







そう問いかけると

彼女はほんの少し

視線を彷徨わせて見せて

しばしの沈黙の後

彼を伺うように上目遣いで

小さく言葉を紡いだ。







「・・・私も、よく、分からないの。

でも、セッツァーの傍が

・・・一番ドキドキして

一番居たい、って思えるの」



「・・・・・・お前っ・・・」



「?セッツァー?」



「っ・・・くそっ・・・」



「?」







こんなにも真っ直ぐに紡がれた

告白的な言葉に

彼女はそのままの意味でしか

口にしていないと理解しているはず。

だが、それでも・・・

こんなにも意識をして

こなんにも年甲斐もなく

落ちつかなくなってしまうのは。

彼の心が何時の間にやら

彼女を求めているから。

己の傍に来るその意味を知りたかったのは

そこに彼が望む答えが欲しかったから。



白か、黒か。

時には歪にも混ざり合った

灰色であることもある。

それなのに・・・

はっきりさせようとしてしまったのは

この彼女の無垢な心に

絆されてしまったからだろう。

己の彼女への想いを知るきっかけも

また、彼女だということは

悔しいが、どこか嬉しさも感じている。





そろそろ皆も置きだすだろう時間。

それでも、もう少し

この二人の時間を過ごしたくて。

きょとんと自分を見つめる彼女を

彼は腕に抱き寄せると

皺だらけのシーツへと身を沈めた。











〜END〜


 

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