final fantasy

□空の雫は温かい
1ページ/1ページ







「ちっ・・・とんでもねえ荒れ様だぜ」







雲行きの怪しい中を

無理を言って飛空挺を進めてもらい

この船の持ち主を覗く仲間内で

思い思いに過ごしていた時の事。

急にグラリと船体が揺れ

次には打ちつけるかのような

水音が響き渡る。

強めの風に大粒の雨水。

この船に疎い女性陣でも

空を浮いているこの状態では

危険であると判断できる。

それ程に強い雨風だ。

そんなこんなで甲板や外の状態を見て

手をつけられるところは

すぐさまに対処していく

そんな銀髪の男の姿を

不安げに室内から見守るのは

翠の髪を揺らす少女。



大方の処置が終わり

室内に戻って来た彼は

正に全身ずぶ濡れで

衣類は水分をふんだんに吸収し

もはや水に浸かっているのと

同じような状態である。

そんな状態なのだから

悪態の一つもつきたくなるのは

当然のことで

案の定舌打ちをしながら戻った彼に

仲間は皆苦笑を浮かべている。

それでも飛空挺のことに関しては

彼に任せておけば良いという

絶対的な安心の元に

普段と変わらない時間を

過ごしていたりする。



少しは手伝おうという気はないものかと

若干苛立ちがフツリと湧く彼だが

自分の愛用の船に触られるのは

我慢ならないものがあるのも事実。

結局は彼が一人で触るしか手はない。

大きな溜息を吐きつつ

この惨状をなんとかすべく

部屋へ向かおうとした時。

軽やかな足音がリズミカルに

近づいてくる気配を感じ

進めようとした足を止めた。







「あ、ごめんなさい・・・

遅くなってしまって」



「・・・これは?」



「え・・・タオル、だけど・・・

あ、もしかして

使ってはいけなかったの?」



「いや・・・そうじゃなくて、だな」



「?・・・早く拭かないと

風邪ひいちゃう」







目の前でふわり、ふわりと揺れる

鮮やかな翠を見つめながら

彼は差し出されたタオルを受け取る。

水滴がポツリと落ちる

髪を覆うように頭からタオルをかぶり

乱雑に拭っていく。

体の方は最早拭くとかどうこうという

そんな次元の問題ではない為

とりあえずそのままで。



濡れた銀髪を白いタオルと大きな手で

拭っているその姿を

じっと見上げる彼女の瞳は

どこまでも澄んでいる。

だが、その奥の奥

誰にも見止められないような程に

僅かにだがチラリと揺らめく何かがある。

それは視線を向けられる

彼にしか分からないことで

本人さえ知らずにいるもの。

なので、敢えて指摘をすることもないが

ソレが意味するところを

十分に理解する彼は

どう対処したものかと

珍しく困惑している。



ふと気づけば目の前の彼女は

まるで待てをされた子犬のように

じっと見上げている。

どうしろというのか、と

眉間を寄せながらも

彼女の手にある新たなタオルを見て

彼女の視線の先が

彼の頭上辺りということを含め

大体の察しがついた。







「・・・・・・」



「・・・・・・」



「・・・はぁ・・・ティナ」



「なぁに?」



「・・・・・・はぁ・・・

ちょっと待ってろ」



「?うん」







それだけ告げると

彼は大股で部屋へと向かって行った。

彼女は待てと言われた為

その場に立ちつくした状態で

言われた通りに待っていた。

その姿を遠目に見ていた

仲間はあれでは本当に

主人を待つ子犬ではないか、と。

その微笑ましくも愛らしい様子に

何故になつくのがあの賭博師なのかと

不公平さを露にするのは

ロックとエドガー。

女性に優しいトレジャーハンターと

女性は老若関係なしな国王様。

けど、一番危険なあの彼になつくのは

その本質を無意識に感じとり

惹かれているからなのだろうと

セリスは一人理解してクスリと笑んだ。



しばらくしてやっと戻って来た

銀髪の彼は衣類を着替えてきたようで

それでも、髪からは水滴がポツポツと

未だに滴っている。







「待たせたな」



「セッツァー、髪、まだ濡れてる」



「・・・来い」



「え?」







ふいに掴まれた腕に成す術もなく

そのまま彼に連れられて行く。

行きついた先は彼の部屋。

中へと連れ込まれると

そのままソファーへと座らされた。

不思議に思いながら

彼の動向を見つめていると

彼も彼女の隣りへと座った。

そして、くるっと背を向けた。







「・・・・・・ほら、いいぞ」



「え・・・」



「・・・タオルを持って待ち構えて

俺の髪、拭きたかったんだろ?」



「!・・・どうして、分かったの?」



「・・・さあな?」



「・・・ホントに、いいの?

私が触っても、いいの?」



「いいから、いいって言ってるんだ。

俺が許可することなんて

滅多にないからな・・・感謝しろよ」



「うん!ありがとう!」







冗談混じりに言ったことだが

彼女相手に冗談など通用しない。

触れることを許してもらえた

それだけのことが

彼女にはとても嬉しいことだったようで

至極喜びを露に銀糸を丁寧に拭いていく。



柔らかな手に優しく触れられて

柄にもなく安心している自分。

自分のこの感情といい

先刻の彼女の眼差しといい

どうやら自分は幾分厄介な想いを

生んでしまったようだ。



だが・・・背後に感じられる

楽しげな彼女と

この甘ったるい空間は

手離しがたいものだと思っている。

ここは、無駄な抵抗等せずに

この感情に流されるままに

流されてもいいのかもしれない。

諦めにもにた決意を胸に

ゆっくりと瞳を閉じて

彼女のなすがままとなった。





拭われる大粒の滴は

彼女が触れて熱を孕み

奪われていく。

だが、拭われた後には

熱い程の熱が、確かに残っていた。









〜END〜


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ