final fantasy

□心奪う野の花よ
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「え・・・」



「・・・・・・」







目の前の驚きに見開かれた瞳が

潤み揺らぐのを見つめながら

俺自身この行動に驚いている。



他愛のないゲームで

思いがけず負けた俺は

買い出しを命じられ。

その買い出しに向かう為

宿を出て行くと

何故かお嬢ちゃんが追いかけてきた。

子供の使いじゃあるまいし

一人で大丈夫だと言い捨てるも

なかなか折れない。

こっちの方が先に折れて

二人での買い物となった。



持って来たメモを見ながら

全て買い揃えたことを確認し

宿へと戻る途中。

混雑とは最早言えない人混みで

お嬢ちゃんとはぐれてしまった。

だが、そこまで心配はしなかった。

これがヴァンやアーシェなら

面倒事に巻き込まれたり

起こしたりという心配をする所だが。

お嬢ちゃんはあのメンバーの中でも

普通にまともな人間だ。

辺りを見回して幾つかの路地を見つけ

一番近いところへと滑り込んだ。



まあ、見事的中したわけだが。

俺のお嬢ちゃんへの認識は

少し甘かったようで・・・。







「・・・あ、あの・・・

先程のことなら、本当に

私が迂闊でした、ので」



「そうだな・・・

俺はお嬢ちゃんはもう少し

頭が良いもんだと思ってたんだが

俺の見当違いってことか?」



「ぅ・・・あの・・・」



「・・・ああいう輩のあしらい方は

手慣れてるだろ?

ダウンタウンには

もっとやっかいな奴がいると思うが」



「はい・・・いつもなら

もっと上手に受け流せたと思うんです」



「今日は、その"いつも"と

何が違ったのか

聞かせてもらおうじゃねえか?」



「あ、あのっ・・・そ、その前に

こ、この腕を、あの・・・」







お嬢ちゃんの言いたいことは分かってる。

お嬢ちゃんを壁に押し付けている

この腕を離せって言いたいんだろ?



俺がお嬢ちゃんを見つけた時。

3人の男に絡まれていて

面倒臭いと、そう思いながらも

声をかけようとした。

すると、1人の男が

お嬢ちゃんの首筋に触れ

そのまま顔を思い切り近づけた。

その動向を見て、俺の中の何かが

プツっと切れたんだろう。

気がつけばその男共を打ちのめしていた。

俺が我にかえるのと同時に

わけの分からないことを叫びながら

散って行ったんだが。

後に残った俺と座り込むお嬢ちゃん。

只々、溜息しかでない。



近づいて苦言の一つでも、と

そう思ったが。

眼前に差し出した手を見つめ

ふわりと笑みながら手をとられて。

だが、こちらを見上げるお嬢ちゃんの

細く白い首筋が目に入ったと同時に

先程の光景がフラッシュバックした。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





とまあ、冒頭に戻るわけだが。

未だ動こうとしない俺に

普段見せない慌てっぷりを披露する

目の前のお嬢ちゃんに

何故か小さく笑みが浮かんでしまう。

この何とも言えない気持ちは何だろうか。

まさか・・・と思いつつも

やはり・・・とも思う。

それでも、これは

普段お目にかからない

お嬢ちゃんの姿に興味をそそられた。

ただ、それだけのことなのだと

そう己に強く言い聞かせた。







「あ、あのっ・・・バルフレアさん」



「・・・理由」



「っ・・・この、腕は

このまま、ですか?」



「ん?理由を言ってくれりゃあ

俺はすぐにでも

お嬢ちゃんを解放するさ」







困ったように頬を赤らめながら

俺を伺うその様子が

・・・俺としたことが。

不覚にも可愛いと思えてしまった。

本当に、"お嬢ちゃん"にだ。



そんな俺を余所に

問いただした理由を説明する為か

懸命に言葉を選ぼうとしている様だ。

そんな姿をこの至近距離で

見下ろしながら、考えた。



常日頃から、目を奪われる。

一体彼女の何がそうさせるのか。

際立って美人だ、というわけでもない。

抜群のスタイル、というわけでもない。

まさか、遊び慣れしているはずもない。

ただ・・・見ていて思うのは。



礼儀正しく、真面目で

あの幼馴染とはえらい違いだ。

その心の広さと温かさは

俺から見ても感心する。

それに幼馴染に対してと

同じように仲間のことも気にかけて

些細な事にでも気づき

気配りもよくできている。



ああ・・・そういうところか。

俺の周りにはいないタイプで

素朴で、家庭的というのだろうか。

その存在、温もりに触れ

胸の真ん中辺りが

柔らかく温もりを孕むような

そんな安心感にも似た

安らぎを与えてくれる。



それは、まるで・・・

そう・・・野道の傍らに咲く

名も知らないような小さな花。



派手で存在主張をするような

あの深紅の薔薇とは違う。

美しさや気品さに

魅了されるのではない。



その存在を目にするだけで

疲れが癒えるような。

そこに居てくれる

只、それだけでいい。

そう、本当に安らぎの源だ。







「・・・ふっ・・・」



「・・・バルフレア、さん?」



「・・・いや・・・はぁ・・・

理由は追々聞くとして、だ。

さっさと帰らねえと

うるさい連中が待ちくたびれてるぞ」



「あっ!いけない・・・

あまり遅くなったら

心配かけてしまいますね」



「・・・・・・それだ」



「え?」



「お嬢ちゃんが居なくなって

見つけた時の状況・・・

柄にもなく切れたのは」



「・・・・・・」



「心配したからだ・・・パンネロ」



「・・・っ!?え・・・今・・・」



「・・・くくっ・・・さっさと戻るぞ」







敢えて耳元で囁いてやると

途端に真っ赤になって飛び上がった。

その反応を見ての

己の機嫌の良さは認めざるを得ない。

だが、果たしてあの反応は

耳元で囁かれたからなのか

普段は呼ばない、名前で呼んだからか。

その判断はしかねるが

それでも、四六時中一緒にいる

幼馴染に対してではなく。

他の誰でもない、俺だけを見つめ

俺に対して示した反応。

その事実が、言葉にはしないが

俺は余程嬉しかったらしい。



俺の後を追いかけて来る

足音を聞きながら

知らず口元が緩んでいた。










〜END〜


 

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