final fantasy

□所謂、それも一つの欲
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ギュっと包まれた温もり。

きつく回された腕の力強さだとか。

決して離さないと言わんばかりに

掴まれた肩に感じる熱さだとか。

ふわりと香るフレグランスと

少しのアルコールと煙草の混じった

彼の香りだとか。



この距離でしか感じれない

彼の全てが私を支配するこの瞬間。

この時間がたまらなく愛しい

なんて、思うようになったのは

一体いつからなんだろう。

そっとぎこちなく

彼の背に手を回して

私からもゆっくりと

抱きしめてみた。

そうすれば、彼からは

より強く抱きしめられた。







「苦しい、です」



「・・・我慢しろ」



「・・・痛い、です」



「・・・・・・」



「・・・・・・顔、見たい、です」







彼の胸元へと押さえつけていた腕が

ゆっくりとその力が弱められ

僅かにできた隙間から

見上げるように彼と視線を交えた。

苛立たしげなその表情に

僅かに苦笑が浮かんでしまい

更に苛立ちを煽ってしまった。







「何が可笑しい?随分と余裕だな」



「可笑しくて笑ったんじゃありません。

バルフレアさんがこうして感情を

大っぴらにしてくれるのって

あまりないので、嬉しくて」



「・・・・・・嬉しい、ねぇ」



「はい」



「じゃあ、俺に嫉妬させたのも

計算だったってことか?パンネロ」







普段あまり呼ばれない名前で呼ばれ

しかも耳元で囁かれてしまった。

慣れない体はピクリと震えて

目前にある彼の白いシャツを

知らずキュっと握りしめていた。

まだ、余韻の残る耳元は

熱をもったように熱くなって

彼を見つめる視界が

ほんの少し潤んでしまう。







「・・・はぁ・・・」



「あの・・・私・・・」



「・・・ソレも、計算か?」



「?・・・え?」



「・・・・・・はぁ」



「?あの、よく分かりませんけど

今も、さっきも・・・計算、って?」



「・・・・・・あ〜、分かってる

いや、分かってたよ・・・

そういう女じゃないことくらい、な」



「??」



「ふっ・・・分からなくていい」







さっきよりも柔らかになった口調で

小さく語られる声音が

とても心地よくて。

苛立ちが潜められた代わりに

苦笑の浮かぶその表情が

とても好きだと思えた。



うん・・・やっぱり、好き。



改めて実感した想いは

自分にとっては当たり前のことで

でも、こんな風に改まってしまうと

何故かとても恥ずかしさを覚えて。

急に彼の顔が見れなくなってしまう。







「どうした?」



「・・・ごめん、なさい」



「?何がだ?」



「っ・・・さっき、ヴァンが

私の怪我をした指、舐めた、こと」



「・・・・・・」



「ヴァンは、家族みたいなものだから

私には、当たり前だったんです。

・・・でも・・・もし、逆だったら

・・・バルフレアさんが

もし、フランに同じことをしたら

・・・私、嫌、です」







私の言葉に何も返さない彼に

不安が募ってしまい

顔も上げられなくなって。

私はまた何か間違ったのだろうかと

もう一度謝罪の言葉を

告げようとした。

でも、それよりも早く

彼の腕が私の頭ごと抱え込んで

さっきよりももっと密着して

抱きこまれてしまった。

そして、コツンと

頭に彼が顎を乗せて

また、大きく溜息を吐いた。







「あ、の・・・」



「ったく・・・くくっ・・・

ホント、初心なお嬢ちゃんには

敵わないな・・・

想定外なことだらけだ」



「え・・・?」



「・・・俺も悪かった

大人げないってのは分かってた。

けどな、それでもムカつくのは

ムカつくんだよ」



「はい・・・ごめんなさ・・・っ?」



「謝んのは、もういい・・・

それより・・・

コッチに詫びてくれた方が

非常に嬉しいんだけどな?」







コッチと示されたのは

彼の形の良い薄い唇。

瞬時に顔が熱くなって

戸惑う気持ちが溢れたけれど。

それで、喜んでくれるなら、と

自分よりもずっと背の高い彼に

自分から届くようにと

目一杯背伸びをして唇を重ねた。



触れるだけの口づけ。

それでも、離れた瞬間に見た

彼のとても満足げな表情に

私の心はキュンと音をたてた。










〜END〜


 

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