final fantasy

□雫
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ポタっ、ポタっ、と

小さな音を奏でる

キラリと光る透明な珠は

地面に広がる水たまりに

踊るように跳ねながらも

様々な音色を反響させていた。



暗雲に覆われた空を見つめ

大地へと降り注ぐ天の水を

ただ静かに見つめていた。

まるで、空が零した涙のようで

灰色の空は目に映る全てを

その色へと変えてしまったように

錯覚してしまう程に

暗く、おぼろげにしてしまう。



でも・・・

頭で、心で想う彼だけは

鮮やかな程に鮮明。

柔らかなブラウンの髪

穏やかなダークブルーの瞳

形の良い薄い唇

少し低めの体温を伝える指先

色も、形も、その存在も

彼だけは鮮明で

私の中で息づいている。



遠くで響く雷鳴に

また、視線を空へと戻した。

あの音は彼のいる方角で

彼の元でも空が泣いているのかと

そう思うと当たり前だけども

ここと彼のいる場所は

確かに繋がっているのだと

どこか安心できる。







「・・・どうしちゃったの、かな」







不安・・・不安・・・

怯えや恐怖にも似て

苛立ちや一種の諦めにも似た

頭を、心を覆い尽くそうとする。

鮮明さをもった彼だけが

浮き出たようにあったのに

上塗りするように覆われていく感覚。



皆が、世界が畏怖する

あの力が、存在が関係するのかは

分からない。

でも・・・多分・・・きっと

ソレが見せる、感じさせていると

私は知っている。

まるで、耳元で囁くかのように

私をズルズルと引き寄せ

泥濘の奥の奥へと堕とそうとする。

呑まれそうになったことは

今までに何度もあった。

それでも、いつも私を

引きとめてくれるのは

いつも傍に寄り添ってくれる彼。

魔女の騎士である前に"私"の騎士で

私を想ってくれるただの男だと

彼は言っていた。



でも・・・彼は今

遠く離れた場所にいて

私を引きとめるものは何もない。

ああ・・・囁きが大きくなって

大地を打ちつける天の涙の音が

重なりあうように響き渡る。

暗く、黒く、轟くような呻き

閉じた瞼の裏では闇が手招く。

だんだんと薄れる意識が

その手を取るかのように

遮断しようとした、時。







「リノア」



「・・・っ・・・え?」







聞こえるはずのない声に

見開いた瞳でその存在を確かめた。

握りしめるシーツが敷かれている

このベッドの・・・

私がいるこの部屋の主であり

私を唯一、制することのできる彼。

ここにいるはずのない彼。

任務に向かったのは一昨日で

その時、一週間は最低でもかかる

そう言っていたはず。

なのに・・・。







「どう、して・・・」



「・・・仕事、終わらせたから」



「!一週間、かかるって・・・」



「・・・三日で終わらせた」



「・・・・・・」



「・・・・・・」



「っ・・・ぅ・・・」



「・・・リノア」







急に視界が滲んで

彼の姿もぼやけてしまって。

そんな私を彼がいつものように

優しく抱きしめてくれた。

彼のこの温もりを感じて

安心したのか体の力が抜けて

身を預けてしまう。



先程まで手招いていたものは

彼の姿を見つけた時から

消え去っていた。

彼がいない・・・

それだけのこと

されど、それは私には重大なこと。

いつから、私はこんなにも

彼に固執するようになったのか。

本当に、今の私は彼なしでは

生きることさえままならない。

もしかしたら・・・

彼と出会ったという

その事実こそが

私を狂わせたのかもしれない。







「っ・・・スコール・・・

ダメ、だよ」



「・・・何が?」



「私を、甘やかさないで?

・・・こんな風に、されたら

私・・・スコールがいないと

生きられない、よ・・・」



「・・・何だ・・・そんなことか」







まるで、何でもないような

当たり前のようなもの言いに

彼を見上げると

スルリと頬を掌で覆われて。

視線が交わると

いつもの優しい笑みを浮かべて

甘く、蜜を多分に含んだ

囁きを耳元へと落とす。







「そうなるように

ずっと、リノアを構っていたんだ」



「え・・・?」



「俺がいないと、どうしようもない

俺なしでは息をすることさえ

出来ない程に・・・

甘やかして、甘い蜜で溶かして

俺だけを求めるように」



「ぁ・・・ど、うし・・・」



「どうして、なんて聞くな。

・・・・・・分かってるだろ?」







分かってる?

彼の言葉を頭で反復しながら

彼が言うなら

そうなのかもしれないなんて

思ってしまう時点で

私は、彼の想う私と

なってしまっているのだろう。



見つめる瞳は妖しく揺らいで

狂喜に彩られていた。

それでも自然に受け止めているのは

私自身が浮かべるこの笑みも

ナニかを含んだものだから

なのかもしれない。



ゆっくりと彼の首に腕を回して

まだ、言っていなかった言葉を

彼の言う甘い蜜を含ませた声音で

絡みつくように伝えた。







「おかえりなさい、スコール」



「ああ・・・ただいま・・・リノア」







外では未だ空は泣いたままで

近づく雷鳴が

これから激しくなることを

知らせていた。



もしかして、私達を見て

泣いているの?

なら、泣く必要なんてないわ。

だって私達は、今・・・

こんなにもシアワセなのだから。





一際大きく空が光り、その刹那

大粒の雫が激しさを増した。












〜END〜


 

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