final fantasy

□きっと、アツサのせい
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輝く太陽の下。

歩く両側から優しく降り注ぐ木漏れ日。

まさに、その翠の光を切り取ったかのような

俺の目を奪う翠の気配が俺の後ろに感じられる。

きっちり3歩分、空けられているこの距離。

まるで俺と彼女の心の距離を現わしているようで。

もどかしくて、どうしようもない。

振り向けば・・・すぐ、そこにいるのに。







「・・・わっ!?」



「・・・えっ?」







突然後ろから声がして振り向いてみた。

すると何かに躓いたのか彼女が単にドジなのか

地面に思いっきり転んでいた。







「・・・何、してるんだ」



「うぅ・・・ぃ、イタイぃ〜・・・」







ゆっくりと体を起こした彼女が

痛みに耐えながら潤んだ瞳で見上げてきた。

服や手足だけでなく額や頬にまで砂埃がついている。

それなのに・・・潤んで煌めく瞳と淡く染まった頬の色

嗚咽を漏らさないよう閉じられた桃色の唇

ゆるやかな波を思わせる翠の髪

そのどれもがひどく魅惑的で純粋に

『触れたい』と思わせた。







「・・・っく・・・ぅ・・・カイン?」



「・・・はぁ・・・いつも言ってるだろ?

足元には気をつけろって」



「ふ、ぇ・・・ごめんなさい・・・」







彼女を立たせようと手を差し出した。

しかし俺の手を見つめるだけでなかなか掴もうとしない。

イライラしつつも彼女が俺の手をとるまで待ち続けた。

にも関わらず彼女はとうとう小首を傾げた。

また、その仕種の可愛さにも腹が立つ。







「さっさと立て!」



「え・・・キャッ!?」







呆けている彼女の腕をむりやり掴んで立たせて

そのまま小さなその体を抱きしめた。

腕の中の彼女は戸惑いの声をあげているが

そんなことは無視してその感触を堪能した。

見ているだけでは分からない柔らかさ華奢な体と甘い香り。

自分の思いのままに彼女に触れて

心が満たされると思っていた。

それなのに・・・満たされるどころか

『もっと触れたい・・・もっと・・・もっと』

そんな欲がどんどん溢れてくる。







「・・・くそっ」



「カイン?」



「!?・・・何だ?」



「・・・迷惑かけて、ごめんね」







シュンと落ち込む彼女を見て

何とも言えない気持ちになり

思わず苦笑が零れてしまった。

本当に何でいつも人の感情にばかり敏感なのか。

俯く彼女の頭を抱え込み耳元に囁いた。







「迷惑、なんて思ってない」



「でも・・・」



「お前のボケっぷりなんて今更だろ」



「!私、そんなにボケてないもん!」



「お前、いい加減自分のことを理解しろ」



「違うもん!!」







ふくれっ面で上目遣いで睨む彼女からは

全くと言って良い程恐さなんて感じられない。

むしろ可愛さを露にしていると言っても良い程だ。

こんなにも可愛い、可愛いと思うなんて・・・。







「はぁ・・・全部、この暑さのせいだな」



「えっ?」



「いや・・・お前のボケっぷりは

暑さのせい、ってことでいいんじゃないか?」



「何よそれ!」



「本当に、暑いな・・・今日は」







快晴ともいえる真っ青な空を見上げ零れる翠の光の中

自分の内から湧き上がる欲を暑さのせいにして

しばらく腕の中の愛しい存在を堪能していた。

そんな、とある夏の日のこと。










〜end〜


 

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