final fantasy

□今年もアナタと。
1ページ/1ページ







「あっ・・・」







薄暗い空を気にしながら

少し急いでいた帰路の途中。

幾分鬱陶しくなり始めた前髪に

はらはらと真っ白な華がかかる。

温度差によって

触れるとすぐに消えてしまうソレに

思わず声をもらした。



あっという間に辺りを白く覆いだした

荒い雪を見てふと浮かんだのは

愛しいあのヒト。

凛とした眼差しだったり

照れた時に赤く染まる目元に

比例するかのような白い肌。

この舞い散る雪は

どこかあのヒトを彷彿とさせる。







「・・・急がないと、また心配してるかも」







少し過保護なあのヒトは

きっとこんな雪の中を歩いていたら

必要以上に心配してしまうだろう。

でも過保護なのは、お互い様、かな。







「あっ・・・ホープ!」



「えっ?・・・ライトさん

どうしたんですか?」



「雪が降って来たから・・・はい」







考えていたヒトが急に現れて驚いていると

ライトさんが差し出してくれたのは1本の傘。

それも今彼女がさしているものをだ。







「風邪、ひくだろ?」



「大丈夫ですよ。

僕よりライトさんがさして下さい」



「私はそんなに柔な鍛え方はしていない」



「それでも、女性なんですから

冷やしたら駄目ですよ」







頑固なところがあるのは理解しているから

彼女の手から傘を奪うと

今では僕よりも細く小さな肩を

抱き寄せて二人で一緒に1つの傘に入る。

いろんな経験のある彼女だけれど

こういうことには慣れていないのか

付き合いだして結構な時間が経った今でも

こうして頬を赤らめている。

そういう初心なところもたまらなく愛しい。







「こうすれば問題ないですよ」



「・・・だからって

こんなにも密着しなくても・・・」



「もうすぐ家ですし

少しだけ・・・良いですよね?」







彼女が弱いと知りながら

少し声を低めてソッと耳元に囁く。

予想どおり真っ赤な顔を

背けて小さく頷いた。

そんな彼女に僕は

表面上は余裕を見せることが

できるようになった。



今の僕達にとってあまりにも

当たり前すぎる望みに

貴女は笑うかもしれない。

でも・・・願わずにはいられないんだ。



今年も貴女と一緒にいられるこの幸せ。

来年も、再来年も・・・

出来ることなら

この一生を終えるその瞬間まで

続いて欲しい。







「当たり前、か・・・」



「?・・・ホープ?」



「あっ、何でもないですよ

・・・急ぎましょうか」







そう言うと自然なことのように

彼女は僕の手を握る。

“当たり前”になるまでの

長い時間を思い出すと

嬉しいことや楽しいことと同じだけの

苦しいことや哀しいこともあった。

そんなことを思いながら

少し前を行く彼女の背を見下ろして

数歩大股で歩き肩を並べ

不意打ちで口づけた。

衝動に近いその行為に固まる彼女。

思い出していた頃のように

もう振り回されるだけではない。







「っ・・・ホープ!」



「すみません・・・

ガマン、できなかったんです」



「ガマン、って・・・

せ、せめて・・・二人きり、の時に

・・・しろ・・・」



「・・・・・・」







ああ・・・やっぱり、貴女には敵わない。

その言葉と表情は反則だ。

いつの間にか見えてきた家に

急ぎ始める僕・・・そして、貴女。

同じ想いなことに

少し安心して残り僅かな家路を急いだ。








〜end〜


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ