final fantasy

□香りと言の葉をのせて
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真っ青な空を見上げて

眩い太陽を見つめて。

どうしてなのかな・・・

視界が不意に滲んで

頬を温かな滴が伝っていく。










どんなに叫んでも届かない。

どんなに呼んでも応えてくれない。

残る香りも感触も薄れて

姿形とキミがくれた言葉だけが

記憶にあるだけ。

まだ、諦めたわけじゃないのに

まだ、思い出になんてしたくないのに。

日に日に、一分一秒と

時間が目まぐるしく過ぎて

私の中のキミもどんどん奪われていく。



抗いたいのに

抗うだけの術を

私は持っていない。

キミへの想いだけでは

もう、ダメなんだよ。

揺らいでしまうこの心は

キミを真っ直ぐに求めているのに

キミを掠めることもできない今に

焦ってしまって。



けれど、泣いたり諦めたり

それだけはしたくない。

どんなに悲しくても

辛くて苦しくても

もう、キミを待つだけの私は

待っているだけの私は嫌だから。

欲しいもの、手に入れたいものを

自分の為だけに

自分だけで決めて進みたいから。

涙で想いまで流してしまいたくない。

張り裂けそうなこの苦痛さえ

キミへの気持ちだから

とても愛しいものなんだって

きっと、誰に言っても

分かってはくれないと思う。

それでもいい。

だって、私とキミ

二人だけのものだから。



だから。

キミを求める今を

投げ出したくない。

もし・・・もしも・・・

私と言葉を交わしたり

触れ合うことができないのだとしても

視線を交わらせて

頬笑み合うことが叶わないのだとしても

私はそれでも

最後の最後まで諦めない。

キミが私に示してくれたように

私も全身全霊でこの想いを貫きたい。










「・・・ナ・・・・・・ユウナ」



「ん・・・?・・・ティー、ダ?」



「くすっ・・・大召喚士様が

こんなところで寝てたらダメっすよ?」



「・・・あ、れ・・・?」



「・・・まだ、寝惚けてるっすね」







ふわりと浮遊感に包まれ

ゆっくりと瞼を開けると

目の前にぼやける愛しい人の顔。

名を紡ぐ自分の声が掠れているのを

何となく聞きながら

ゆらゆらと揺れる私は

彼の腕に抱かれているのだと分かった。



優しく微笑みかけてくれる彼。

夕暮れの橙色の空を

彼越しに見上げながら家路を行く。

これは・・・

いつか見た夢。

幸福感と満たされる愛に包まれ

でも、目覚めて現実に戻り

その突き刺すような悲しみに

いつも胸が痛くなった。

これも、また夢なのかな・・・。



黙ったまま見つめる私を

見下ろしていた彼が

急に歩みを止めた。

どうしたのかと思っていると

さっきまで私がいた砂浜へと戻り

私を抱えたまま腰を下ろした。

そして、私の頬を

その大きな手で包む。







「・・・どうかしたっすか?」



「え・・・」



「・・・泣いてる」







言われるまで気がつかなかった。

ポロポロと止めどなく零れる涙。

これが現実だと分かっているのに

さっきの夢の所為なんだと思う。

自分の意思ではなかなか止められず

すると、彼が目元へと

優しく口づけてくれた。

滴をすくうように、宥めるかのように

何度も何度も繰り返して。

いつしか涙は止まり

彼のキスの雨も

最後にと、唇へ一つ落として離れた。







「ふっ・・・涙、止まったっすね」



「うん・・・ごめんね?」



「謝らなくていいけど・・・

理由、聞いてもいいっすか?」



「・・・・・・夢、を、見たの」



「・・・・・・」



「夢から覚めて、キミがいて

幸せ過ぎて・・・

自然に涙が出たみたい」







笑顔でそう話してみても

ぎこちない私の表情に

やっぱり納得できていない彼。

ほんの少し眉を寄せて

それでもしっかりと私を

抱きしめなおしてくれた。

包まれる温もりが

肌から伝わって

今が現実だと教えてくれる。







「・・・ユウナの、甘い匂いがする」



「えっ・・・私、は

キミの、温かい匂いがするよ」



「はは・・・どんな匂いっすか?」



「心がね、温かくなって

とっても安心できるの」



「・・・だったら

もっと近くで感じて、さ・・・

俺にも感じさせてよ」







海の向こうに沈む太陽のような

心を擽る香りと

甘く響く声と共に

耳元に囁かれたのは・・・



『ちゃんと現実なんだって

分かるくらいに、さ』



潮騒さえも耳に入らないくらい

キミで一杯になってしまったの。












〜END〜


 

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