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□小さな星を数えて
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「お師匠様?」



「ぇ・・・玉龍?」







明るい月が空を西へと傾きかけた

そんな時間。

いつもなら疲れから

すぐに寝つけるというのに

今日はなかなかやってこない睡魔。

体を起こして

何となく焚き火の明かりが来ない

木の陰へと移動して。

幹にもたれながら

静かな光が散りばむ

夜空を見上げていた。



しばらくすると急にかけられた声。

かけられた先は真正面で

そこにある白い影に

ほっと胸をなでおろす。

足音も物音もあまり立てずに

近づいてきて

そっと隣りへ腰をかけて。

その一連の動作がとても軽やかで

月明かりのせいか

衣の白が反射してとても神秘的。







「どうしたの?」



「ええ・・・何だか眠れなくて」



「眠れないの?

・・・体、調子悪い?」



「そんなことはないですよ。

ただ、なかなか眠くならなくて・・・

可笑しいですね。

昼間、あんなにも歩いていたのに」







今日は本当によく歩いた。

いつも入る邪魔もなく

襲われることもなく

途中いつものように

悟空がへばり込んでしまったけど。

それでもここ最近では

一番距離を歩いた、そんな日だった。



静かに夜空を見つめ続けていると

口を閉ざして何かを考えていた玉龍が

ふいに立ち上がった。

つられて玉龍を見上げると

すっと差し伸べられた手に

ひょいと抱えられた。







「えぇ!?ぎょ、玉龍?」



「しっかりつかまってて、お師匠様」







そう言われて木々の間を抜けて行く

玉龍の首元にしっかりと抱きついて。

そこに他意はないけれど

ふわりと香った澄んだ泉の中を

連想させるような爽やかな香り。

草木や綺麗な花を思わせる自然の香り。

間近でないと分からないその香りに

思わず頬が、体が熱くなってしまった。



しばらくすると歩みが止まっていて。

目的の場所についたのか、と

下してもらおうと体を動かしかけた。

でも、一向に力が弱まる気配のない腕と

再び歩き始めた玉龍に

諦めてまた大人しくしていた。



そこは少し開けた場所で

空を遮るものが何もないのか

降り注ぐように

淡い光が差し込まれている。

泉が広がり、夜空を一面に映している

その様がとても綺麗で

思わず感嘆の溜息を漏らしていた。

玉龍はためらうことなく

その泉の中を進んで行く。

波紋が広がり揺れる水面は

それでも揺らぐ夜空を

美しく映している。







「とても、綺麗ですね。驚きました」



「うん・・・さっき

周りを見てまわってた時に見つけた。

お師匠様、喜ぶかと思って」



「ふふっ・・・ありがとうございます。

本当に・・・美しいですね」







泉の中心までくると

玉龍は歩みを止めた。

静かになった水面は

夜空を切り取ったように

綺麗に映していて

まるで煌めく星の中にいるような

夜空に浮かんでいるような

そんな錯覚をおこしてしまいそう。

しばしその景色に見惚れていると

玉龍がふっと顔を覗きこんできた。

トクンと一瞬胸が跳ねたけれど

それには気付かないフリをした。







「お師匠様」



「どうしました?」



「ん・・・少しは、気がまぎれた?」



「え・・・」



「・・・落ちついたら戻ろう。

たぶん、今度は眠れるよ」



「玉龍・・・」



「もし、それでも眠れなかったら

僕が傍にいて一緒に起きてるから」







言葉が出ないとは、このことなのか。

私の為にここまで連れて来てくれて

私の為に今こうして傍にいてくれて。

玉龍の"お師匠様"に対しての気持ちだと

それはよく分かっているのに。

それでも、こうして

私を見つめて

今の私を思ってしてくれる

この行為が・・・とても、嬉しい。







「ありがとう、ございます」



「お師匠様・・・もう、眠れそう?」



「・・・もう少し、だけ。

後、少しだけ・・・

このままでもいいですか?」



「うん・・・お師匠様がいたいだけ

ここにいていいよ」







そう言って更に抱き寄せるように

私を抱える腕に力が込められて。

玉龍も"男の人"なのだと

そう改めて気づいて

まだ、もうしばらくは

眠れそうにないと。

そう思うのに・・・

まだ、もうしばらくは

このままでいたいと

そう思ってしまう不思議な気持ちも

私の中に芽生えていた。










〜終〜


 

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