etc

□Let's begin your and my future
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『・・・アシュリー・・・』





未だ耳に残る甘い響き。

自分の名がこんなにも

特別な音と余韻を残すものなんて

思いもしなかった。

鼓膜が揺さぶられるあの感覚。

少しの重さを感じる低音は

体の奥の何かまで確実に震わせて

別の何かを残していった。



と、そこまで思考を働かせて

気がつけば温かなベッドの中。

徐々に明確になる事実。



ああ・・・何て夢を見たのだろう。



そう、夢だった。

それは夢だけど、決して妄想でもなく。

それは、昨日自身の身に起こった真実。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「・・・おやすみ」



「おやすみ、良い夢を・・・」







あの地獄のような事件から

早くも1ヶ月が過ぎてしまった。

帰還後、結局のところ

ボディーガードとして

傍にいてくれることになったレオン。

嬉しくもあり、少しの悲しみも。



傍にいてくれるのは嬉しい。

でも、それは仕事だから。

レオンの意思ではないし

それに、大統領の娘と

そのボディーガードなんて立場じゃ

この気持ちを伝えられるはずもない。

決して受け入れられるはずがない。



この関係に不満があるわけではない。

でも・・・

せめて、気持ちを伝えたい。

レオンの本当の気持ちを聞いて

それでダメなら、すっぱりと

諦められた・・・はず、きっと。







「?・・・アシュリー?」



「っ!え?」



「・・・部屋に入らないのか?」



「あ・・・うん・・・そう、ね」



「明日も早いんだ。ゆっくり休めよ」



「ええ・・・・・・ぁ・・・」



「・・・アシュリー・・・

本当に、どうしたんだ?」







言ってはいけないと分かっている。

でも、こうして柔らかな声で

いつも接してくれるから。

仕事だと一線を引いてはくれないから。

今だって、急に頭を撫でたりなんかして

気安く触れたりするから。

私は・・・私の心は

貴方への想いが、もう溢れてしまう。

止めたいのに、抑えたいのに

その術が分からない程に

もう、限界を超えてしまいそう。



ジワリと視界が滲んで

そんな表情を見られたくなくて

急いで背を向け部屋に入ろうとした。

でも、そうはさせてもらえず。

ぐいっと彼に肩を掴まれ

そのまま一緒に室内へと

入ることとなった。

勢いよく扉に押し付けられ

レオンは空いた手で

カチャリと鍵をかけてしまった。

わけが分からず不安に思っていると

レオンの腕の中へと引き寄せられた。







「え・・・・・・レ、オン?」



「・・・そんな顔、するな」



「え・・・」



「・・・言わないと決めてたのに

言ってしまいたく、なるだろ」







レオンの言う意味が分からず

でも、どこか切羽詰まったような

その声音と首筋にかかる熱い吐息に

抵抗しようなどと微塵も浮かばない。







「・・・レオン?」



「・・・アシュリー・・・

っ・・・頼むから、そんな顔で

俺を見ないでくれ」



「え?・・・そんな、顔って

私、どんな顔して・・・」



「・・・すまない」



「え・・・・・・んっ!?」







すっぽりと体を包む腕

触れ合う前髪

視界一杯に広がる彼

唇に触れる熱い程の熱。

一つ一つを認識して

やっと、レオンにキスされていると

理解することができた。

突然のことに頭が真っ白で

思わずレオンの胸を押して

離れようとした。

すると、抱き締められる腕に

より一層力が込められ

触れ合う唇が厭らしく蠢いて

こじ開けられた隙間から

ぬるりと生温かいものが

入り込んできた。

口の中の隅々までに這いまわるそれは

ついに私の舌を絡め取り

くちゅっと卑猥な音をさせる。



唇だけでなく耳からも

翻弄するなんて。

こんなにも激しいキスは初めて。

ようやく離れた時には

呼吸さえままならず

レオンと私の混じり合ったものが

口端から顎を伝っていくのが分かった。







「ん・・・はぁ・・・は、ぁ・・・」



「・・・アシュリー・・・大丈夫か?」



「はぁ・・・ど、して・・・」



「・・・本当に、分からないか?」



「っ・・・だって!・・・

同じ、だなんて・・・自信、ないわ」



「俺だってそうだ。

そうかもしれない、っていう

可能性しかなくて、確証なんてないし

ましてや自信なんてないさ」



「だったら・・・」



「それでも・・・言葉にしないと

伝わるはずもないし

互いが交わることもない、違うか?」







レオンの言うことは分かる。

それでも、恐い。

伝えて、変わってしまうことが。

関係も、状況も、立場も

心も、考えも、全てが。

今あるものが少なからず変わること。

そして、もしも、交わらなかった時。

私はレオンを失ってしまうことが

それが一番、堪らなく恐い。

手に入れたいという気持ちと同じ程

失いたくないという気持ちもあって

今を変えたくないという気持ちも

一際大きいから。

一歩を踏み出す勇気が持てずにいた。

だからこそ、この気持ちは

言ってはいけない、伝えてはいけない。

そう何度も自分に言い聞かせていた。







「なあ、アシュリー。

言ってくれ・・・君の立場も

俺の立場も・・・何も考えずに

ただ、君の気持ちを聞かせてくれ」



「っ・・・!」



「・・・アシュリー」



「っ・・・レオ、ン・・・

ふ、ぅ・・・好、き・・・好きよ」



「・・・・・・」



「貴方と過ごす時間はささやかでも

私にとって、とても幸せで・・・

貴方を失うのが、恐いと

そう思えるほど・・・貴方が、好き」







やっと言えた安心感

ついに壊してしまった不安感

口にしたことで改めて実感した想い。

溢れるこの滴は

色んな気持ちが混ざり合っていて

一言では説明なんてできなくて。

そんな私を更に強く抱きしめると

レオンは私を抱え上げ

ベッドへとおろして覆い被さってきた。

私を見下ろす瞳を見つめ

求められているものを悟り

私からもギュっと抱きしめ返した。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「いつまで寝ているんだ」



「!きゃっ!

い、いきなり入ってこないでよ!!」



「・・・昨夜から

ずっとここにいること

忘れた、なんて

言うんじゃないだろうな?」



「なっ!?あ、朝から

変なこと言わないで!!」







あの激しく、貪るように

愛し合った時間を

軽く仄めかしてくるレオンに

顔を赤くして抗議をすることしか

私にはできなくて。

こんなにも爽やかに余裕な彼が

なんだが憎らしい。

でも・・・本当に彼が

私のものになったのだと

未だ信じられなくて。







「どうしたんだ?」



「うん・・・何でもない」



「・・・・・・はぁ・・・

全く、また碌でもないことを

考えてるんだろ」



「そ、そんなこと・・・」



「いいか。俺はアシュリーが好きだ。

君を手に入れる為なら

何を敵に回してもいい。

君が安心できるなら何度だって

言葉と態度と行動で示してやる。

愛してるんだ・・・アシュリー」







真剣な眼差しで紡がれた言葉に

再びはらはらと滴が零れて行く。

これは昨夜のものとは違う。

全く違うもの。

だって、こんなにも胸が温かくて

こんなにも喜びに

満ち溢れているのだから。





そして、言葉どおりに

私を愛しているのだということを

たくさんのキスと

合間に紡がれる囁きとで

示してくれた。





危惧していた彼との未来に待つものは

きっと、悲壮感や絶望に

覆われたものではなくて。

きっと、温かで、甘やかな・・・。












〜END〜


 

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