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□好意故の行為
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*未来設定 りん15〜17歳?位。





さらさらと静かに流れる河原を

ゆったりと歩む二つの影。

鈴の音のような愛らしい声を

楽しげに奏でる娘と

一見涼しげな空気を纏う

まるで夜空より銀光を放つ

白い月のごとく美しい男。



だが、その男が纏うモノは

人のソレとは違う。

ならば禍々しい物の怪かと

問われればそれもまた違う。

人に与える恐れ、畏れ

全てのモノに対する

絶対的、圧倒的な力を示す。

そう彼は、西国を治める大妖。

彼の前には全てのモノが

平伏し、命乞いをする。

また、命知らずなモノは

勇猛果敢に、とは言い難く

もはや自信過剰に

まさに命知らずにも程があり

彼に刃向かい、その身と命を失う。



そんな狗の大妖が唯一手中に納め

寵愛するのが・・・

今彼の目の前を行く娘だ。







「ここをね

もう少し行ったところなの」



「・・・前を見て歩け。

また・・・」







後ろをゆるりと歩く彼へ

甘やかな視線を向けながら

言葉をかける娘に

静かな声音で注意を促す。

そこには常よりも

どこか穏やかさが垣間見れ

娘に対しては意識せずとも

柔く接してしまうのだろう。



注意を受けたにも関わらず

背後の彼へ話しかけていた娘は

案の定、地の小石に躓き

その体が大きく傾いだ。

あっと思った時には

近づく地に目を固く瞑り

訪れる痛みに構えた。

だが、想像していた痛みや

身への衝撃はなく。

代わりに嗅ぎ慣れた香りと

自身よりも少し冷たい

肌の感触にゆっくりと瞳を開いた。







「あ・・・」



「・・・・・・・・・」



「っ、ごめんなさい・・・」



「・・・構わん。

今に始まったことではないだろう」



「うぅ・・・」



「・・・・・・りん」



「はい」



「・・・まだ先か?」



「あ、もう少しで着くの」



「そうか・・・ならば」







そう言うと彼は娘の体を

何事もないように

抱え上げ横抱きに

その華奢な体を腕で抱いた。

羽根でもあるのかと思う程に

その身は軽く

思わず彼の眉間に皺ができる。







「?殺生丸さま?どうしたの?」



「いや・・・掴まっていろ」



「え・・・このまま?」



「その方が手っ取り早いだろう」



「で、でもっ・・・」



「・・・何か問題でもあるのか?」



「っ・・・は、恥ずかし、ぃ」



「・・・周囲に気配はない。

何を恥ずかしがる必要がある」







そういう問題ではないと

胸中で声を荒げたくなったが

如何せんそういった心内を

理解してくれるような

相手ではないと

一番この娘が知っている。

それに・・・他の者には

理解されないだろうが

娘に関して言えば

言い出したら聞かない

面も持っている。

ならば、今回もきっと

娘がいくら否定しようと

聞いてはもらえないだろう。

本気で拒むのであれば別だろうが。



するりと彼の首へ

そのほっそりとした腕を絡ませて。

命じられた通りに

しっかりと掴まった。

瞬時に薫る甘い蜜のような

娘の香りに

幾らか表情を緩めると

そのまま空へと舞うのだった。










〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「わぁ〜・・・殺生丸さま!

とっても綺麗でしょ?」



「・・・このような場所に

温泉などあったのか?」



「里の人間しか知らない

秘境のようなものなんだって」







娘が案内した場所は

ゆらゆらと湯気の立ち上る

温泉だった。

月の出るこの刻限にしか見られない

水面一面に映しだす白い月が

揺らめくその光景は美しい。

娘もその情景にうっとりとして

仄かに頬を染めている。



そんな娘の表情を

黙って見つめる男は

未だ腕に娘を納めたままだ。

軽やかな体ではあるが

その柔らかさは

女特有の体つきで。

少し乱れた衿元から覗く肌と

膨らみの谷間に

潜めていた雄としての本能が

むくむくと目覚め始める。



「下して?」と

上目遣いで言われ

すんなりと腕から下すも

男は今度は娘の背後から

抱きすくめた。

腕の中にすっぽりと納まる身は

やはり己と比較すれば

小さくて、ほんの少しでも

腕に力をこめれば

ぽきりと折れてしまうのではと

危惧してしまう程に儚く思える。

男が他の人の女を

腕に抱いたことなど

あるはずもないのだが

それにしてもこのか細さは

一体何なのだろうか、と。

娘を抱き締めたまま

考え込んでいると

ふいと見上げて来る瞳と

視線が絡まりあった。







「殺生丸、さま?

何だか、今日は変」



「・・・りん、湯浴みを

するのではないのか?」



「あ、うん!

その為にここへ来たの!」



「・・・・・・」







娘の返答を聞き

男は徐に娘の帯に

手をかけるのだった。

辺りは静寂に包まれており

しゅるっと衣擦れの音が

いやに鮮明に響いた。











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