etc

□踏み越える手前
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「・・・んっ・・・」



「・・・・・・」        







傷と疲れのせいなのだろう。

俺が離れると

すぐに眠りについてしまった。

抑えがきかなくなると

ナスカにも自分にも

言い聞かせたにも関わらず

結局こうして傍にきてしまう。        

枕元にそっと腰かけナスカが

目を覚ましてしまわないように

気配を消してその寝顔を覗きこんだ。

幼い頃の面影を残した

この寝顔を見つめ

ふっと、先程の

ナスカの言葉を思い出した。





『ソードに殺されるなら、私は構わない』



『私の命は、全部ソードにあげる。

ソードのために使っていいよ』
     




そう言ったナスカの表情は

すごく穏やかで優しげだった。

たとえ他の女達に

どんな激しい愛の告白をされても

こんなにも俺の胸を

熱くさせることなどできないだろう。



感情を表に出さず

乏しいのだと思っていたが・・・

こんなにも優しい表情を

持っていたとはな。

それに・・・あの、扇情的な表情。

ずっと見てきたからといって

全てを知っているわけではなかった。



初めて触れた・・・その柔らかな唇。

しっとりと、仄かに甘く

口づける合間に息苦しいのか

洩れ出る吐息と切ない声。



触れるだけのつもりが

思わずソレ以上へと

進んでしまいそうになった。

この状況下でそれはまずい。

だから、ひとまず

離れたというのに・・・。







「あんな風に触れてしまうと

・・・駄目だな」







今まではなんとか堪えてきていたが

一度触れてしまうと

抑えることが、堪えることが

こんなにも辛くなるとは

思いもしなかった。



何度、触れてしまいそうに

なったことか・・・

いっそ奪ってしまおうかと

思ってしまう程に。

だが、今はこうして傍にある。

ずっと、傍にいたが・・・

また意味合いが違う。



もう・・・誰のいいなりにもならない。

俺のもの・・・俺だけのもの。







「ふっ・・・過保護、というより

・・・独占欲が強い、のか」







似合わない苦笑が出てしまう程の

自分の欲深さ。

この先、何があろうと

待ち構えていようと。

この大事な存在だけは守り抜く。

手放したりなどしない。

その命が俺のものだと言ったナスカに

この命をかけ生きて守り抜くと誓った。



赤い柔らかな髪に触れて

眠るナスカの唇に、また、触れた。

かすめる程度に一瞬触れただけ。

それでも、甘い余韻を残した

この口づけは

溢れそうな情欲をせき止める理性を

すぐに壊してしまうだろう、と

麻痺しかけた頭で理解しつつ・・・。

また、唇を重ねて・・・

限界に近い理性を保ちながら

ギリギリのラインを

なんとか踏みとどまっていた。

それでも・・・俺は既に

この口づけに溺れ始めていた。



その傷が癒えるまでは

なんとか抑えてやれるが・・・

もし癒えた後

無防備に触れるようなことがあれば

俺はもう、抑えてやれる自信はない。

いや、抑えるつもりはない。

賞金首を狩る以上に攻めて追いこみ

逃がしはしない・・・

その覚悟をしてもらうからな。





長い夜が明けると・・・

また、二人で闘う日々の始まりだ。

今は、今だけは・・・

早く夜が明けることを切実に願う。

俺の理性が保てている間に・・・。








〜END〜


 

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