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□表と裏
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顔が知れているからと

変装しながらの日々。

しかし、意外にも変装というのは

思いのほか効果があり。

眼鏡で目元を隠し

服装を少し変えて

帽子をかぶってしまえば

全くと言っていい程ばれない。

なので、ナスカは買い物に出ることも多い。

ソードは万が一にも

気付かれたらと危惧するも

ナスカの幼げな表情と

潤む瞳で見つめられると

強く拒むこともできない。



危惧しているのは

何も賞金首だから・・・

というだけではない。

そして今日もソードが予期していた

望まぬ事態が発生してしまった。







『ねえ、キミ可愛いね』



『よかったら、お茶でもしながら

ゆっくり話さない?』



『この後暇?暇なら俺に付き合ってよ』







次から次へとナスカにかけられる

そこいらの男からの誘いの声。

本人はよく分かっていないのか

困惑しながらも

まともに返事をしようとしていて。

そんなナスカを抱きよせながら

ソードは苛立ちを隠そうともせず

賞金首を仕留める時かそれ以上の

鋭利な視線を投げつけたのだ。

賞金首でさえ慄くその視線に

常人のましてや年若い男に

耐えうるはずがないのは明らかで。

僅かの内に踵を返して視界から消えていく。

ならば端から声などかけるな、と

心内で悪態を吐きながら

小首を傾げるナスカの肩を抱き

喧騒に紛れこんで行くのだった。





今日は街中はクリスマス一色だ。

行き交う人々は

家族や恋人達で溢れている。

ソードとナスカもまたその内の一組。

いつまでも心内が純粋なナスカは

キョロキョロと辺りを見回し

とても楽しげに笑顔を浮かべている。

そんなナスカを見下ろしながら

ソードにも僅かに笑みが浮かぶ。

そんな二人は手を固く握り合っていて

離れることのないよう指が絡められていた。







「ねえねえ、ソード」



「どうした?」



「ケーキの材料、買って帰ってもいい?」



「いいが・・・買わないのか?」



「うん・・・

上手くできるか分からないけど

ソードに作ってあげたいって思ったから」







僅かに頬を染めながら言うナスカ。

そんな愛らしい姿を

見せるようになったのは

嬉しくもあり、また心配にもなる。

自分が惹かれるいろんな姿を

惜しげもなくこうも見せられて

自分だけに見せて欲しいのだと

そう思うソードの心中を

ナスカが知るはずもない。



そっと小さく溜息を吐き

了承の意味を込めて

軽く手を握り返し

食材を求めて

ショップの中へと入っていく。

そのソードの行動に

また、ナスカが眩しい笑顔を向けた。





他の男を誘うわけでもなく

ただただ、その時感じたものを

こうして示してくれるようになった。

そんな未だ裏表のない

ナスカの心が堪らなく嬉しくて

大切で、愛しくて。

必ず手離さないように

守りぬいてみせると

固く心に誓いながら

ケーキの材料を手にしていく

ナスカの姿をソードは静かに見つめた。





願うならば・・・

どうかいつまでも

その純粋な心のままでいて欲しい。










〜END〜


 

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