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おまけ小説 エース


「本当に仲良しだよねい。」

マルコにそう言われて、感じた違和感。それは日に日に増して、俺から彼女を遠ざけて行く。
前と同じように接する事が出来なければ、触れ合えない。

彼女が笑えば、俺の胸の中はふわふわと落ち着かなくなる。華のような笑顔と、いつでも前向きな言葉の数々は、春の訪れを感じさせた。

勘違いだと、片付けられれば良かったんだ。

掻き上げた黒髪の甘い匂いを吸って、海に投げたしたサンダル越しの指に見惚れた。肩が露わになったワンピースから覗くきめ細かい素肌に、触れたい欲望なんて押し込めてしまえれば良かった。

魚釣りをした真昼に、釣り上げた大物に喜ぶ彼女の、いつもと変わらないハグを、拒絶してしまう事なんて、あり得なかったのに。

俺は、顔を背けてしまったのだ。

しまったと思った時にはもう遅くて、彼女を見れば目を細めて悲しそうな表情をしていた。きっと誰より、俺の変化を敏感に感じていたのは、彼女自身だった。

悪ふざけをするだけで楽しくて、笑えていたのに、何故俺はその先を望んでしまったのだろう。



「エースは不器用だねい。」

甲板に立って、足を竦ます俺にマルコが言った。
不器用だとかそんな事が吹っ飛ぶくらいの衝撃的な言葉を、彼女から聞いたばかりなのだ。

「なんで?」

情けなく震えた声。
彼女は桟橋から、モビー・ディック号を見上げて暖かな風を受ける。

春島のここで、桜の木を背にする姿が似合い過ぎていて、辛い。


「もう、白ヒゲ海賊団にはいられないの。」

桃色の花弁が舞い、時折彼女の顔を遮る。
今だけは、止んでくれ。

そう願わずには、いられない。


「エース、楽しかったよ。」

「そんな言葉、聞きたくねぇよ!」

ここで別れるというのか。
永遠に続くと信じて疑わなかった道。それは予期せずに、途切れようとしている。

「理由を言えよ!」

「そうだね。最後だもんね。」

彼女はワンピースを握り締めて、下を向く。

「…エースが、好きだから。」

その言葉は、馬鹿みたいに心臓の呼応を早めて来る。
ずっと、きっと、出会った時から聞きたいと思っていた言葉だ。


「これ以上エースと一緒にいたら、私、ダメになる。もっと欲が出て、望む範囲も広くなる。」

その言葉の裏の本心が、単純な俺の思考回路では計れない。

「エースと一緒にいれればいいと、私は思ってた。でも、それはエースの夢を邪魔する。…一緒にいたいって願いは、いつか必ずエースの邪魔をする。足手まといの私じゃあ、ずっと一緒にはいられないって、分かってたの。だから、ここで離れる。」

それを悟らせてしまう瞬間があったなら、その時に戻りたい。それが出来れば、その時に彼女を掻き抱くのに…

「分からねぇよ!」

俺は船から飛び降りて、彼女を姫抱きにした。

「エース!?」

今だって、自分の名を呼ぶ声も愛しいのに、どうしたら離せるのか、俺には分からない。

そのまま船に戻って、彼女の顔を覗き込んだ。こんなに辛そうに顔を歪める姿を、俺は初めて見た。


「エース、離して!」


俺は、彼女の唇を奪った。



「このキスは友達とか、親友とか、そんな意味でしたんじゃねぇ。」

前髪を顔から避けて、彼女の桃色の頬に手を添える。舞う桜よりずっと綺麗だ。

「お前が好きだ。大好きだ。離れるとか、言うなよ。」


笑ったり泣いたり、当たり前の出来事を二人で過ごせれば、それだけでいいんだ。
こいつになら、裏切られてもいい。それでも思い出だけで、俺は笑える。

そう思えるほどに、離したくないのだ。


「エース、大好き。」


彼女の言葉が胸に落ちて、身体を通り抜ける風よりも、気持ちが暖かくなる。
窮地に陥らなければ、素直になれなかった筈だ。でも、今からはストレートに想いを言葉にしていきたい。


「大好きだ!」


空に向けて叫べば、春島の木々が僅かに揺れた気がした。
幻だったのかもしれないが、彼女を想う気持ちだけは、事実だ。

俺は春から、彼女を掻っ攫った。


春島に叫べば
END.

管理人 らいす

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