すきって言って?


□折り紙は覚えてる。
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『すきです』


最初にそう言われたのは、俺が高校2年生の時だった。

真新しいランドセルは赤じゃなくて。

通い始めた小学校で習ってきたのか、器用に折られた折り紙のハートをくれたんだ。


「すきですっ」

「またお前か‥」


家が近くだということもあり、昔から……そう、コイツが産まれた時から知ってる訳で。


「すきなんです」

「お前さぁ、“好き”の意味、解って言ってる?」

「うんっ」


無邪気に屈託なく俺に向けられる笑顔は、可愛くないと言えば嘘だけれども。


「はぁ‥」


いくら子供が好きな俺でも、これは手を焼くよ。


「早く帰れよ」


子供と話す時は、しゃがむだろ?


「ん、かえる」


コイツはいつも‥


「ちゅーっ」


そう声を出して、俺の頬にキスをするんだ。

やー。幼児趣味とかそんなんじゃなくて。そうしないと帰らないから。


「ばいばーい」

「おー気をつけてなー」


姿が見えなくなるまで見送る。

だって、チラチラこっちを見るから、いつかコケるんじゃないかと気が気じゃなくてさ。


夕焼け空に、赤じゃないランドセルが見えなくなって。

俺はホッと息をつきながら家に帰る。


そして次の日も、その次の日も、その次の次の日も。アイツはやってくる。

桜吹雪の日も、蝉のウルサイ日も雨の日も、紅葉の美しい日も雪の日も。

アイツは毎日どこかで顔を出す。


それは、日課になっていた。

アイツが来る時間が遅かったりすれば心配になるし、逆に俺が遅くなった日は足を早めて帰路につく。


もう、アイツに会うことが、当たり前になっていたんだ。
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