すきって言って?
□珈琲が運ぶ甘い匂い
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もみじが綺麗に彩って、イチョウがハラハラ舞っていた。
チリンチリン
そんな可愛らしい音が鳴るとーー‥
「いらっしゃいませ」
君は、その可愛らしい笑顔で迎えてくれる。
「いつもので‥良いですか?」
「はい」
いつからか、そんな注文の仕方になっていた。
覚えていてくれることが嬉しくて、ニヤケてしまいそうになる口元に、ギュッと力を入れる。
窓の外ではもう、コートやマフラーで暖をとる姿が珍しくなくて。そんな僕も、厚めの上着を脱いでソファの上に置いた。
そしてゴソゴソと、いつも通り、勉強道具を並べる。
このレトロな店の雰囲気が好きで、流れるクラシックが落ち着く。
少し橙の混ざった照明が、暗めのブラウンを優しく魅せるんだ。
台に差してある手書きのメニュー。字が可愛くて。勉強そっちのけで、あの子が書いたのかなぁ‥とか、考えてしまう。
カウンターの向こうでコポコポと音がすれば、僕の珈琲の出来上がり。
コツコツと足音がこのテーブルに着くまで、そちらを向いてはいけないんだ。
この前、珈琲を入れるとこ、ずっと見てたら、フィっと顔を逸らされちゃったから。
「お待たせしました」
おとなしい、優しい声。いつもならそれだけで下がって行くんだけど‥
「あの、何か‥?」
「あ、いえっ‥その、」
慌てた彼女も可愛いと、そう思う僕は、かなり重症かもしれない。
「その大学、受けるんですか?」
「え?」
「あっ、すみませんっ、申し訳ありませんっ」
一瞬キョトンとしたんだ。それは質問の内容にじゃなくて、彼女が話しかけてくれたことに。
「待って」
立ち去ろうとした彼女は、僕の声でそのまま止まった。
「受けるよ?それが‥どうかしましたか?」
すると彼女は、僕に向き直り、少し驚いたように目を大きくしていた。
「おんなじ‥なんです」
「ん?」
「おんなじ、大学」
「君と?」
「はい」
その瞳は、だんだんと柔らかくなっていく。
つられてか、僕の顔も緩んでいくのが分かった。
「ということは、年上?」
「いえ、たぶん‥同じ」
「受験は?」
「あ‥私、先に推薦で」
「そっか。おめでとう」
胸が優しく波打って、ニヤケる顔を、止めることが出来なくて。
「あの‥っ、頑張って、ください」
「はいっ」