すきって言って?
□それに込めた意味
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あの人は時々、酷く悲しそうな顔をする。
それはふとした、一瞬の表情で。兄貴は気付いているのだろうか。
庭の向日葵が頭を垂れ始め、蝉が一層うるさくなった頃。
「兄貴」
「なんだ?」
兄弟でも5年離れていれば、それはもう大人と子供。
「あの人のところに行くの?」
「あの人?」
兄貴は誰だか分からないといった様子で眉間に皺を寄せた。
「カノジョ」
その単語は、もしかしたら兄貴の辞書にはないのかもしれない。
現に兄貴は、やっと思い出しましたみたいな顔を向けてにやけた。
「なんだお前、あいつみたいなのがタイプなのか?」
兄貴は高校時代から女友達が多かった。まだ小学生だった俺は、代わる代わる家にやってくるその“女友達”の意味が解っていなかったけれど。
今なら解る。
その中でも、1番多く家に来ていたと思うあの人。けして派手でもなく地味でもない。遊びかそうでないかと言えば、後者に見える。
兄貴だって、あの人には他の人以上に気を使っているような気がするんだ。
なのに。
「気に入ったんなら貸すよ?」
そんなこと、平気で言う。
兄貴はきっと、いや絶対。
あの人があんな顔をすることなんか、知らないんだ。