すきって言って?


□小指がスルリと離れれば
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「ほら置いてくぞー」


そう言って急かすくせに、いつも待っててくれるから。


「ん」


私は、ぶっきらぼうに手を差し出す。


「お前、俺が居なきゃ立つことも出来ねーのかよ」


クスクス笑う時の喉仏が好き。


「ほら」


なんだかんだ言いながらも差し伸べてくれる、その大きな手が好き。


「手ぇ冷めてー」


暑くたって湿ってたって


「だから小指だけなー」


小指だけしか繋いでくれないくせに。


「俺が引っ張ってやってんだから、早く歩けよー?」


私の右腕がピンと伸びて、彼の左腕もピンと伸びて。

ずんずんグイグイ進む背中を、てこてこタラタラついていった。


真冬の灰色な空が今にも泣きそうで、息もキラキラ寒いよって言ってるのに。

彼はいつもコートを着ない。

体脂肪があんまりなくて、筋肉ばっかだから代謝が良いんだって。


毎日毎日筋トレばっか。

その理由を、私は知ってるんだよ?


「おめでとな」


こちらを向かないまま出した声。


「お前も決まったんだろ? 合格。何で言わねーんだよ」


言えるか、馬鹿っ。


「な、何泣いてんだよ」


立ち止まって、オロオロしだしたコイツに蹴りを入れる。


「イって!!」


こっち向くな、馬鹿っ。


「んだよ。嬉し泣きかぁ? 良かったな。今度こそ俺と一緒じゃなくて」


そんな皮肉、今は冗談に聞こえないって。

また小指を引っ張って歩き出す背中。昔は私より小さかったのに。


いつの間にか男の子から、オトコになって。

いつの間にか‥私のココロを奪ってた。


「お前、寒がりなくせにいつも手袋はしないのな」


コートにマフラーに帽子まで被って、手だけは真っ赤。

何でなのか、馬鹿なあんたには解らないでしょ?


「悪くはねぇけど‥」


そう言ってまた前を見る。

この小指、繋いでくれることが嬉しいけれど。


「綺麗な手ぇしてんだから、いたわってやれよ?」


あーあ。

あんたはなんて残酷なの?



笑う時の垂れる目が好き。

ツンツンしてる髪の毛が好き。

その声が好き。


でも


鈍いとこが嫌い。

その手編みのマフラーを大事そうにするとこが嫌い。





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