すきって言って?
□小指がスルリと離れれば
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靴を履き替える時も繋いでた小指。
ね、このままで良いの?
見つかっちゃうよ?
外は凍える程に寒くって。春なんかまだ微塵も感じなくて。
突き刺さる寒気の中で、その小指だけに感じる温もりが、身体の中をギューッと締め付けるから。
溢れて流れようとするそれを、必死にまつげで留めようとしたのに。
色の濃くなったマフラー。目深に被り直した帽子。
もうどうか、振り向かないで。
ひと目だって私を見ないで。
漏れそうになる声を殺して。鼻を静かにすすって。
ばーか。
ばーか、ばーか。
好き。大好きだよっ。
こんなに好きなのに、なんで伝わらない? なんで届かない?
理不尽だよね。
私たちのが出逢ったのは先だったのに。過ごしてきた時間だって、きっと何十倍も違うのに。
あんたはヘラヘラと、お花いっぱい飛ばして笑ってて。
幸せそうに‥話してくれる。
私なんか、全く眼中にないんだね。
ばぁーか。
ばぁーか‥
‥っく、ばーか‥っ
この小指がスルリと離れれば−−‥
「おっそーい」
「わりーわりー、コイツがさぁ」
あんたはあの子の所へ行ってしまう。
でも、あんたがそんなに嬉しそうに笑うから。
「え? お、おいっ」
繋がってた小指、自分から振りほどいて。
「どうしたんだよっ」
顔が見えないくらいまで走って距離をとって。
「用事思い出したーっ」
「はー?」
「2人で行けー」
「な、なんだよ急にっ」
「幸せになれっ、ばーか」
これで良い。
これで良いんだ。
くるりと背を向けて、全速力で走る。
グッと握った手。
小指の温かさを消し去って。
切り裂く空気。
あいつへの想いを凍らせて。
流れる涙−−‥
「好き。大好きだったよ」
……全てを、流して。
次に会うときは、笑顔で祝福できますように。
どうか灰色の空よ、飲み込んで。
「ばぁぁあーかっ!!
っく、う‥、うぁ……
うぁぁああんっ、あ゙あーん、うあぁああー‥」
おわり。