すきって言って?


□小指がスルリと離れれば
3ページ/3ページ

靴を履き替える時も繋いでた小指。

ね、このままで良いの?
見つかっちゃうよ?


外は凍える程に寒くって。春なんかまだ微塵も感じなくて。


突き刺さる寒気の中で、その小指だけに感じる温もりが、身体の中をギューッと締め付けるから。

溢れて流れようとするそれを、必死にまつげで留めようとしたのに。

色の濃くなったマフラー。目深に被り直した帽子。


もうどうか、振り向かないで。

ひと目だって私を見ないで。


漏れそうになる声を殺して。鼻を静かにすすって。


ばーか。

ばーか、ばーか。


好き。大好きだよっ。


こんなに好きなのに、なんで伝わらない? なんで届かない?

理不尽だよね。

私たちのが出逢ったのは先だったのに。過ごしてきた時間だって、きっと何十倍も違うのに。


あんたはヘラヘラと、お花いっぱい飛ばして笑ってて。

幸せそうに‥話してくれる。

私なんか、全く眼中にないんだね。


ばぁーか。

ばぁーか‥


‥っく、ばーか‥っ



この小指がスルリと離れれば−−‥



「おっそーい」

「わりーわりー、コイツがさぁ」



あんたはあの子の所へ行ってしまう。

でも、あんたがそんなに嬉しそうに笑うから。


「え? お、おいっ」


繋がってた小指、自分から振りほどいて。


「どうしたんだよっ」


顔が見えないくらいまで走って距離をとって。


「用事思い出したーっ」

「はー?」

「2人で行けー」

「な、なんだよ急にっ」

「幸せになれっ、ばーか」


これで良い。
これで良いんだ。


くるりと背を向けて、全速力で走る。


グッと握った手。
小指の温かさを消し去って。

切り裂く空気。
あいつへの想いを凍らせて。


流れる涙−−‥



「好き。大好きだったよ」



……全てを、流して。




次に会うときは、笑顔で祝福できますように。


どうか灰色の空よ、飲み込んで。




「ばぁぁあーかっ!!

っく、う‥、うぁ……

うぁぁああんっ、あ゙あーん、うあぁああー‥」







おわり。










前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ