すきって言って?
□瓶に詰めた淡い色
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「遅いぞー」
「うるさいっ」
ひとたび夜に足を踏み出せば、身体が無意識に震えるほど寒い。
待ち合わせ場所はあたしが居たホテルのすぐ近くだった。
服を一枚も脱いでいなかったあたしは、化粧を軽く直しただけでホテルを出た。だからかなり早く着いたハズなのに。
「かなり待ったし」
赤い鼻、赤い頬に赤い手。コイツは何故か、この寒空の下、本当に長く待っていたみたいな感じだった。
声と顔と性格にピッタリ合った緩い服装は、実年齢より少しだけ若く見える。
自由なヒト。
それがあたしの中の印象だ。
「店は?」
「今日は休みだよ」
何がそんなに楽しいんだろうか。微かに鼻歌なんか聞こえる。
どこに行くんだろう。
コイツのことだ。目的がなくても不思議ではない。
「月が綺麗だねぇ」
その言葉に、ふと上を見る。
「わ‥」
大きな大きな満月の光が、凍えた空気を虹色に照らしてた。
あたしは思わず見とれてたんだ。
なんだろう。“綺麗”だなんて、久しぶりに浮かんだ言葉で−−‥
「泣いてる‥」
ハッとして目尻に触れれば、確かに濡れている。
「泣いてないっ」
でも、あたしがそんなこと素直に認めるはずがない。
「あはは。素直じゃないなぁ」
そんなこと……解ってるもん。
「ここに座ろっか」
コイツが指差したのは、コイツに初めて会った場所。
「ほらおいで? お酒あげるからっ」
そしてどこに隠し持っていたのか、コイツのポケットというポケットからたくさんの缶ビールが出てくる。
「なんで‥っ」
ビールを飲めば、あたしはきっと泣いてしまう。
だって、アンタがいけないんだ。
「泣けば良いじゃん。ね?」
あの時、あたしはここで独り。缶ビールを飲んでいた。
ワインもウイスキーもカクテルも。お洒落なアルコールなんか飲みたくなくて。
真っ赤なマニキュアで、飲み干したビールの缶を握りつぶしながら堪えてた。
泣かないように。
泣かないように。
それを泣かせたのは……アンタだ。