すきって言って?
□花嫁の憂鬱
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「あ、お待ちくださいませっ」
「離してっ」
「ですが‥」
私は、その困惑した様子の制止を振り切って大きな扉を開けた。なんだか無性にイライラする。
そんな中、廊下に出た先で合わせた顔は‥
「何だよ、ドレス決まったのか?」
やたら飄々としているコイツ。それが更にイライラを増幅させた。
「はぁ、」
返事をするのも面倒くさくて、私は分かり易く大きなため息をつきながら駐車場へと向かう。
「なんで‥こんな」
薄暗い車の中、私の気分は滅入るばかり。
プロポーズは嬉しかったし、彼となら一生一緒に居たいと思った。
式の準備や、友達への招待状書き、両親への報告さえ楽しかった。なのに−−‥
「やめようかな‥結婚」
1週間後はついに結婚式。当日の朝に婚姻届を出しに行き、そのまま式をあげる。決まってないのは‥私のドレスだけ。
「はぁ‥」
口をつくのはため息ばっかり。
少し前までは、何をしててもすごく楽しかったはずなのに。なんでかな?
日が近付くにつれて、どんどんイライラするし、どんどん‥不安になる。
私の一生をあの人に縛られてしまって本当に平気?
この先に幸せはある?
分からなかった。
分からないことが多すぎて、苦しくて。
向こうのお母さまはとても良い人で、すごく仲良くなれそうだし、あの人は次男だから子供だって急げとは言われない。
問題は、仕事‥かな。
今まで一生懸命に働いてきた。だからそれなりに遊べたし、貯金もあるし。
でも−−‥
結婚してしまったら色んなことに縛られるでしょう?
自由も‥奪われるでしょう?
奥さんってなんだろう。
結婚することに意味はある? そんなことしなくったって、今まで楽しかったじゃない。なんで結婚なんかしなきゃならないの? なんで、なんでっ、なんでっ!!
「なんでっ!!」
「おっとー‥落ち着け、俺だ」
「っ、なんで‥」
気が付けば、狭い助手席の上。ヒールを脱いで、三角座りをしながらシートを殴ってた。
その手を止めてくれたのは、この人。
ジンジンと地味に痛い拳。ジンジンと伝わる、彼の‥熱。
「まだ時間はある。ゆっくり‥な?」
この人はふっと柔らかい笑みを向けると、その手を離して私にシートベルトをかけた。
「行くぞー」
ハンドルを握るその姿に、私の中はだんだんと落ち着いていく。