すきって言って?


□茜桜の伝説
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「ったくお前は‥最後の最後まで問題児だったな」
「スミマセンでしたっ! 反省してます!! だから、解放して?」

 俺の気は急いていた。式典が終わった時点で太陽は真上をとっくに通過していたのに、この上さらに生活指導のオヤジに捕まるだなんて。

「そうだな。せっかくの卒業式だし」
「うっわー。ハナシ分かるーぅ」

 もう放してくれるもんだと思った俺は、鞄をひっつかんで走る体制を整える。−−‥すると

「最後に‥」
「へ?」
「職員室の掃除を命ずる」

 俺の身体は、非常口の絵にそっくりなカタチでフリーズした。

「んっだよ。卒業式だぞ卒業式!! さっさと解放しろってのっ」
「なんか言ったかー?」
「いや、何でもないっスー!!」

 大きなため息をつきながら、俺の手に握られたのは大きな箒。無駄にデカいこの部屋を角から掃く。よく罰でやらされててきたから、風の向きなんかお手のものだ。

 時は刻一刻と過ぎて、俺の気は焦る一方で。

「終わったー終わったよっオヤジ」
「先生と呼べ」
「うぅ‥終わりました先生」

 そう言うと先生は、今まで見せたことのないくらいの穏やかな顔で、ニコリと笑ってみせた。

「よく頑張ったな。お前ももう卒業か。高校へ行ったら、シッカリしろよ?」

 そう言って俺の背中をボンと叩いた先生に、何だか泣きそうになった。

「引き止めて悪かったな。ここからが勝負なんだろ?」
「え゙‥まさか」

 先生がニヤリと笑いながら指を差す窓の向こう側には、まだ8分咲きの大きな桜。

「あの子のクラスは、最後の教室でみんなで昼飯食べてたからな」

 先生が引き止めてくれなかったら、俺はずっと待ちぼうけだった訳で。心が折れていたかもしれない。

「オヤジ‥っ」
「それにな? あの桜のジンクスは“太陽が真上に”だが、俺はこの、傾きかけて橙を帯びた時に告白したんだぞ」
「それって‥」
「あぁ。俺の嫁さんだ」

 このオヤジ、どうしてそんな美人を引っ掛けられたのか7不思議に入るくらいに謎だったんだよなぁ。

 俺はオヤジをぎゅーっと抱きしめてハゲた頭にキスすると、全速力で走った。

「はぁ、はぁ、はぁ‥」

 すると−−‥

 美しく咲く未完成な桜の下に、その茜色の淡いピンクがよく似合う、美女が佇んでいたんだ。

「この手紙をくれたのは、キミ?」
「あ‥うん」

 想いは桜に乗り、溢れては爆ぜゆく。

「俺、君のことが好きだ!! 付き合ってくださいっ」

 そう言うと、彼女は少し俯きながら。空と同じ色に頬を染めて−−‥

 ゆっくりと、小さく頷いた。



おわり





 
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