BAND FEAVER!! (部活もの)

□序幕 ペーパープレイヤーAFG
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   「―――……音楽だッ!!!」





















爆発した衝動を一気に吐き出して瞼を開けた。

あまりの勢いに、両耳をふさいでいたヘッドフォンが
首のあたりまでずり落ちてぶら下がる。





誰もいない屋上からの景色を独り占めにして
一人昼食を貪っていた亜麻色の髪の青年―――

アルフレッドは右手に握ったIpodの電源を切ると
コードを巻いてポケットへ仕舞い込んだ。





















持参したハンバーガーの最後の破片を口へ押し込み
多少無理やりに飲み込むと、大きく息を吐いて
屋上を囲む鉄製のフェンスにもたれ込む。

平穏な昼下がりの日差しと吹き抜けるそよ風の感触が
麗らかな春の日を演出していて何とも心地よい。





再び目を閉じてみる。

すぐにたった今まで耳元で鳴り響いていた
大音響のハーモニックスが甦ってきた。



息が止まるくらいのインパクトを引き連れ、
骨髄にまで響き渡るような衝撃を伴う“音楽”。

今までの日常とはまるでかけ離れた、
悩みも沈んだ気分もすべて吹き飛ばしてしまうような
活気と情熱とパワーに満ちた振動。





















「……そうだ。 音楽がしたい」





















アルフレッドは脳裏を揺らす軽快なリズムに
鉄柵にかけた片手を弾ませながら呟いた。



ディープパープル、ローリングストーンズ、二ール、
果てはラルクアン・シエルやウーバーワールドなど
数多くのロックやメタル音楽に溺れてきたが、
現在彼の心を根底から酔わせていた音楽は
今までのそれらとは全く一線を記すものだった。





















……ブラスバンド。



弦楽器を掻き鳴らしビートに身を任せる軽音楽とは
まさに対極にあると言っても過言ではない、
協調と調和が重んじられるもう一つの方向性。

ギターを少しかじった程度で音楽については
初心者同然のアルフレッドにとって、
完全なる未知の世界であり敷居の高い音楽。





前述の通り吹奏楽器など触れた事もない彼が
おいそれと手を出せる領域のはずがない。

しかも彼の在籍する学園ヘタリアの吹奏楽部は、
何年か前まで他校にまでその名を轟かす強豪として
五本の指に入っていたほどの実力なのだ。



最近そんな噂もめっきり鳴りを潜めたが、
たった1年でそこまで落ちぶれるわけもない。

きっと表に出ていないだけで、今でもその実力は
どんどん磨かれ向上しているのだろう。





















「迷ってちゃダメだ…… 行動を起こさないと。
このまま待ってても追いつけなくなるだけだしな」





















自分に言い聞かせるようにして景色から目を逸らす。

捻られた視線のその先には、古ぼけた革地の四角柱。





















「せっかく掘り出してもらえたんだからさ、
使ってやらないと可愛そうじゃないか」





















独り言をいいながらケースの金具を外し、蓋を開ける。

そこには、まだポリッシュもかかっていない
くすんだ銅色を纏ってこそいたが、
かつては目映いような黄金に輝いていたであろう
一本の楽器の姿があった。




全長6、70cmはある中ぶりの真鍮の管……
未だにその弾力を失ってはいないバネを内包する
押し心地のいいピストン、そして円形のベル。



アルフレッドはケースから取り出したトランペットを
物珍しそうな目でしげしげと眺めた。





















「これ…… 俺の前は誰が使ってたんだろう?
家のみんなには聞いても知らないって言うしなぁ。

まぁいいや、とりあえず音楽ができさえすれば」





















などと暢気なことを口走って楽器をケースへ戻し、
頭上に広々と横たわる雲ひとつない青空を見上げる。

吸い込まれそうな群青に浮かぶ太陽に交差して、
渡り鳥が一羽さっそうと駆け抜けていった。





















「えーと……

確か部室は三階の東端にあるんだったよな」





















新たな夢を抱いた青年は胸いっぱいに息を吸い、
自分に喝を入れるとケースを持ち上げて校舎へ向かった。





















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