BAND FEAVER!! (部活もの)

□序幕 ペーパープレイヤーAFG
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「……たのもぉーっ!!」





















扉の前で二度三度呼吸を整え、踏ん切りをつけるために
以前テレビで見た道場破りの台詞を高らかと叫びながら
聳え立つ戸板を両手で押していた。



ぎぃぃ、と軋んで大開になる両扉。
その先にはさぞ大勢の生徒が席についていて
銘々に自らの楽器を手にしているのだろう。

そんな手練たちの中にいても自分は決して臆しない、
やはり初心者なので最初は張り合えなくとも
いつかはこの部活のエースに躍り出てやるんだ。





いつになく熱烈な気概に燃えて、アルフレッドは
一気に開けた視界の向こう側へ視線を送り……





















「―――――……あれ?」





















素っ頓狂な驚きの声を上げると同時に、
中にいた人物が何か言い出すよりも早く
ドアの取っ手を掴む手を引いていた。





……がごん、と今度は重々しい鉄の噛み合う音が
昼下がりの平和な日常で満たされた廊下に飽和する。





















「あ……あれ? おっかしいなぁ……
部室は確かにここで合ってるはずなのに……」





















苦笑いを浮かべて扉の横のプレートに目をやる。
『第1音楽ホール』…… 確かに、そう書いてある。

というか、この建物は校舎の外に設置されているので
間違えたくても間違えようがない。





もう一度おかしいな、と首をひねった青年は、
先刻の光景が夢であってほしいと言わんばかりに
自分の頬に爪を立てた。



痛い。 というか、この扉を開けてしまった時点で
もうすでに相当痛い空気を味わっていた。

何故なら、思い切り開かれた木材の向こうで
意気揚々と乗り込んだ彼を待っていたのは―――





















「ちょ、お前何しに来たんだよ?
いきなり来ていきなり閉めんな馬鹿や……

って――― え、おま……えええっ!?」





















握っていた取っ手が今度は内側から勢い良く引かれ、
数秒前に見かけた見慣れた顔がひょいと姿を現した。





なんで。 なんで選りに選って君がいるんだよ。
というかそれよりも、ここって確かに吹部の部室だよな?

なんだか酷く小ざっぱりしてるっていうか、
殺風景というかなんというか……





















「―――…… 人少っくな!!! 」





















あまりにも呆然とした沈黙の後、ようやくそれだけ言って
アルフレッドはドアノブを掴む手に力を込めた。





















+++





















「な…… おいおいおい、ちょっと待てテメェ!!

いきなり来ていきなり開けて罵倒して帰んじゃねぇよ!
そんな事このアーサー様が許さねーぞ!」



「うわぁぁあああ! やっぱり君か!!
なんで君がここに居るんだよ!? っていうか……



こんなの酷すぎるんだぞ! 俺がせっかくヤル気出して
部活動に勤しもうとしてた矢先にー!

こんな…… こんな無人同然の音楽ホールだなんて、
しかもそれがアーサーのいる部室だったなんて
信じられないんだぞーーーーー!!」



「無人じゃねぇ!! ちょっと人数が少ないだけだ!
あと俺が居ちゃ悪ぃってのかよ、あぁ!?



そんだけ失礼な口叩いといて、通りかかったので
喧嘩売ってみましたなんて事ぁ無えよな?

ツラ貸しやがれ●●●●体育館裏来いやゴルァ!!」



「ぎゃぁああああぁああアーサー!
口調とか顔がまんま不良そのものなんだぞ!!

誰かこのタチの悪いヤンキー追っ払っ―――」





















部屋の内側から扉を引こうとする力に対抗し、
必死にノブを引いて応戦する。

わずかに開いた20センチの隙間越しに飛び交う罵声。
傍から見ればかなり怪しい光景だ。



無論その騒ぎは屋外のみならず部屋の深部にまで
大々的に響き渡っていたようで、やがて奥のほうから
誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。





















「アーサー…… 急になに大騒ぎしてんだ?
誰か来たのか?」



「おー、たいそう命知らずなお客だぜ。
開口一番に悪口を浴びせかけてきやがった
死に急いだ大馬鹿野郎がなぁ……!」



「ちょ―――いっぺん落ち着けってお前は!
そんなにキレるとか一体何言われたん…………」





















戸板の隙間に見えていた金髪が奥へ引っ込み、
それと引き換えに澄んだ空色の瞳が覗きこんだ。

その色合いもまた、彼が以前飽きるほどに見ていた
日常の一辺に織り込まれていたものだった。





















「あ…… えっ、フランシス!?」



「おー、お前かアルフレッド。
お前相手じゃ多少キレても仕方ないかぁ」





















動揺に立ち竦む彼の目の前で、やれやれという息遣いと共に
戸を開けた人物は額にかかった髪をかき上げた。

面前の青年、そしてふて腐れたようにそっぽを向いている
隣の青年もまた見知った者たちだ。



いや、見知っているも何も同じクラスの人間である。

アーサー・カークランドにフランシス・ボヌフォワ……
そして彼らから少し離れた辺りにもう一人いる気がするが
誰だったか名前がまったく出て来ない。





















「ま…… とりあえず立ち話もなんだしさ。

昼休み終わるまでまだ時間あるんだろ、
せっかくだし寄っていったらどうだ?」





















左腕にはめた時計を確認した長髪の青年は
親指で部屋の中を指し示して誘った。

アルフレッドとしては最初から入部するつもりで
この建物へと足を運んだ次第なので、断るわけにもいかず
成されるがままに屋内へと踏み込んでいく。





















「……我らが吹奏楽部へようこそ」





















青年が最後に付け足した台詞は、

きっと自分の手の中のケースを見たからに違いない。





















+++
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