BAND FEAVER!! (部活もの)

□第1章 仮入部のアルエッティ
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「―――そう、か…… やっぱりあいつは
単独じゃ引き込めそうにないな」






















その日の午後、楽器の運び込みが終わると
アーサーは教室の椅子の背もたれを抱え込んで
やりにくそうに低く唸った。

彼らが佇むのは昨日時点で軽音部から返された
本来の居場所である三階の音楽室である。



記念すべき仮入生活の一歩目であるはずだが、
その幸先は必ずしも良いとは言えないようだ。

彼らは真っ先に引き入れられると踏んでいた
柔和な元部員の確保を逃したのである。























「まぁあいつならそう言うかも知れないのは
最初から分かってたことだったしね、
文句言えないのは承知の上だったけど……

まさかそこまでハッキリ言われるとは
流石に思ってもみなかったなぁ」



「ルートヴィッヒと菊の二人と一緒でなければ
部活へ復帰する気は到底ない、か。

一番難しそうな条件つけてきやがって……」



「ルートヴィッヒってのは教室で見かけた
あの背の高くてゴツい生徒のことだろ?
確かドラムをやってたとかいう」



「あぁ……正確にはパーカッションだ。

今この部活には金管しかいないからな。
コンダクター、クラリネット、ドラム……
いずれも戦力として確保しておきたい所だが」























「確かに欲しい人材ではあるけど、
現時点ではやっぱり難しいだろうな……。



とはいえ欲しいのが高音パートであることに
代わりはないわけだから、一応は圏内だね。

低音はボーンでそこそこカバーできるとして
木管のサポートは絶対に外せないし」



「とすると、必要になってくるのは
主要な木管楽器の奏者だな……

いや、ここは逆に低音から攻めてみるか?
木管にも底辺を勤める奴は何人かいたろ」



「低音ったらファゴットかバスクラかねぇ。
あ、でもバリサクとかなら顔見知り多いし
引き込みやすさ的にもいいんじゃない?」



「いや……あいつは確かにお前とはつるむが
例の件で俺を逆恨みしてるしな……」



「もう、こーいう時に私情を持ち込まないの!
形振り構ってられないのは事実なんだしさ」



「それはそうなんだが……あー……」






















「おいおい、一体なんの話をしてるんだい?

部員集めを俺に一任してるんだったら
俺にわかるように説明してくれないと
意味がないじゃないか」






















苦渋の選択を強いられているかのように
頭を抱えて悩んでいる様子のアーサーと
それを諌めるフランシスだったが、
肝心の活動要員であるアルフレッドにとって
そのやり取りは不明瞭の一途でしかない。

講義するように声を上げると彼へ向き直り、
やっと事のあらましを語り始める。























「……お前にまず引き入れてもらいたい
部員のメンバーを抜粋してるんだ。

どいつもこいつも無駄にキャラが濃くて
ちょっとやそっとじゃ揺らぎそうにないしな。



取るにもとりあえず部活として成り立つ―――
つまり廃部から逃れる一番有効な策として
5人以上の部員が必要な条件となる。

まずは誰でもいいから1人引き込めれば
部として存続が決定するわけだが……」



「その最初の一人を誰にしていいのか
まったく方針が決まらないのよね。



楽器のバランス的に木管を担当した部員、
要するにサックスとかクラリネットとか
フルートの奏者が欲しいんだけど……

困ったことにいずれも人の性格がアレすぎて
一筋縄じゃいきそうにないわけよ」






















「へー、何だかややこしい事やってるんだな!
そんなの面と向かって入り直してくれって
言ってしまえばいいじゃないか」



「いや、フェリシアーノとのやり取りした後で
そんな事言えちまうのかよお前!

……皆それぞれ自分なりの理由を持って
部活を去っていった奴等ばかりなんだ、
そう簡単に引き戻せているなら
俺達がとっくにやってるっての」



「ふーん……そういうものかなぁ。

正直フェリシアーノもああ意固地にならないで
素直に戻りたいって言えばいいと思うけど」



「お前には想像もつかないだろうけどね……
あいつはあいつで、退部を決意するにあたって
のっぴきならない事情ってもんがあるのさ。

まぁいつかは奴等もどうにか説得して
帰ってきてもらわなきゃならないんだけど」






















青年が部室のドアを開けるまでの間に
個人練習をしていたらしい二人は、
膝に抱えたそれぞれの楽器を手に首を捻る。

青年にはそれほど考え込むべき問題には
とても思えないのだが、どうやら彼らには
躊躇せざるをえない内情が存在するらしい。



しかし悩んだままでは次のターゲットが
決定できないというのもまた事実であり、
その段階を踏まなくては彼の最初の任務の
矛先が定まらないのも順ずる結果である。

アルフレッドは少々苛立ちに似た感情を
ない交ぜにしつつ二人へ視線を送り、
踏ん切りをつけるように一歩前へ歩み出ると
大きく息を吸い込んで口を開いた。























「……やれやれ、君たちも思い切りが悪いな!

いくら個人どうしで仲が良くないからって
しり込みしてちゃ始まらないだろ?



まずは知り合いからでも何でもいいから
引っ張りこんじゃえばいいじゃないか」



「「 ! 」」























呆れを含んだ口調でそういい切ると、
面前の二名が驚いたように顔を見合わせて
何か思い当たる節があるような表情をした。

その思案はいつしか確信に変わったようで、
二人はにやりと怪しげな笑みを浮かべると
早速アルフレッドに向かって切り出す。























「あー……そうだな。 お前の言う通りだ。

元の部員を集めることにばかり目が行って
一番大事な点を忘れてたぜ」



「そうそう、お前と一緒の類で考えれば
もっと簡単な話だったんだよな、これが―――

部員になってくれそうな奴だったら
とりあえずは“誰でもいい”ってことをさ」



「え……え? 何の話だい?」























「あー何でもない、こっちの話だ。

とにかく良かったなアルフレッド、
最初のターゲットは楽に捕まりそうだぞ」



「え、引き込む相手が決まったのかい?」



「まぁ見てなって、俺達だってまったく
コネが無いわけじゃないんだぜ……?」























そう呟いて彼の肩に腕を回したフランシスは、
まっすぐに手を上げると部屋の窓から見える
教室のひとつを指差して細く笑っていた。






















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