BAND FEAVER!! (部活もの)

□第1章 仮入部のアルエッティ
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導かれるまま訳もわからずたどり着いた
その先にあった引き戸を目にした瞬間、
セリアはある種のデジャヴのような感覚に
しばし茫然となって立ち尽くした。



それは紛れもなく、つい先ほど窓から見つめて
何であろうかと物思いにふけっていた
件(くだん)の謎めいた音楽室だったのだ。

彼女を連れてきた青年は何の躊躇いもなく
その取っ手に手をかけようとしているが、
彼は一体なんのために自分を引きずってまで
ここへやって来る意味があったのだろう。





ぶつけてやりたい言葉は山ほどあるが、
どれも切羽詰りすぎて喉から出てこない。

そうこうする間にも青年は相変わらず快活な
行動力溢れる勢いでその戸を開いていた。























「おーい、みんな! 連れてきたんだぞー!」






















開口一番、心底嬉しそうにそう叫ぶ。
どうやら室内には他にも人がいるらしい。

青年の長身が隔たりになって室内は伺えず、
彼女には椅子を引いて立ち上がる物音だけが
中にいる人物たちの存在を示す情報だった。



やがて中にいるらしい複数の人物たちは
戸口の傍まで歩み寄ってきて口を開く。

その声はあまりにも軽く彼女の耳朶に馴染み、
かつての懐かしい、とても懐かしい景色を
脳裏に描かせるほど慣れ親しんだものだった。























「……お、もう来たのか。 早いじゃねぇか」



「よしよし、まずは第一関門突破ってことで。

そんだけ機動力がありゃ、楽器の腕はどうあれ
下っ端としての働きは十分じゃない?」























「あ……な、えぇ!?

アーサーさんに―――フランシスさんッ!?」






















とっさに張り上げた声は上ずって
ほとんど掠れた悲鳴のようになってしまった。

それに気づいてようやくこちらを向く青年、
続いて部屋の中にいた二人の人影。



見慣れた金髪の二種類の瞳が彼女を出迎える。

それは本音を言えば会いたかったような、
転ずれば二度と会いたくなかったような―――





良くも悪くも腐れ縁となっていた二人の男は、
さも当然のように自分の登場を出迎えていた。

これから起ころうとしている出来事の末路が
とっくに見切れているかのような確信と、
それに伴う余裕を含めた怪しい笑顔で。






















「えっと、とりあえず連れてきたはいいけど
この子は二人の知り合いなのかい?
お互いに名前を知ってるみたいだけど……」



「あぁ、そりゃ知り合いなんてもんじゃ
片付けられないくらい深い間柄だ。

それこそ海より深く山より高い仲、ってな」



「いやいやいやいや深くないし高くないし!!
初対面で思いっきり誤解されそうなこと
口走るのやめてくれないっすか!?」



「おー、ツッコミの切れ味も相変わらずだね。
まぁ元気そうで何よりだよ、セリアちゃん」



「ななな、なんなんですか急に二人とも!

無理やりこんな場所まで拉致ってきて
私をどうするつもりなんですかッ!?」



「あっはは、何かそれ波乱の幕開けみたいな
台詞でちょっとそそられちゃうね〜。

お兄さん、折角だから本題とか置いといて
再会の喜びを発散させちゃおっかなぁ?」



「ひぎゃぁぁあ! 寄んな変態!!
しばらく会わない間にちょっとは治ってるかと
期待した私が馬鹿でしたよ!」























いかにも慣れっこになった者同士の発する
勢いのあるコントが繰り広げられる中、
ただ一人この状況が掴めていない新入り青年は
ぽかんと棒立ちになったまま罵声に揉まれる。



どうやら自分が引っ張ってきた小柄な少女が
彼らの求めていた“ターゲット”だろうことは
その面識ぶりにおいて間違いないと思うが、
三人がどういう間柄でどういう関係を持つかは
今の彼の想像が及ぶところではなかった。























「はぁ、はぁ…… 息切れしてしゃーない……
こんなにツッコんだの久々ですよ―――

ところで私マジで何のために呼ばれたんすか?
今新しい部活の吟味で忙しいんですが」



「あらそう? なら尚さら好都合ってもんよ。

ちょっとそこに座ってな、今アーサーが
お茶入れてくれてることだし」



「??? ……んじゃ、お言葉に甘えて」






















納得いかないといった表情で腕を組みながらも
しぶしぶフランシスの誘いで教室の中へと
足を踏み入れる、セリアと呼ばれた少女。

ここへやって来たこと自体は初めてのようで
しきりに周囲を見回し感嘆の声を上げている。



その初々しい様を見ながら青年はふと思う。

あぁ、このとてつもなく無防備な雰囲気は
昨日の自分も持っていたものだったのかと……























「(なんていうか……気の毒だけど、

奴等から見れば俺も彼女も
究極に“カモっぽい”んだろうな……)」






















うっすら二人が彼女を招いた理由も把握する。



ご愁傷様なんだぞ―――。

青年は悔みの句を脳裏に浮かべつつ
彼女の後姿に心中で手を合わせた。






















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