BAND FEAVER!! (部活もの)

□第1章 仮入部のアルエッティ
8ページ/14ページ












「あーくそ……会長命令攻撃も効かねぇか。
なんでまた今回はそんな強情なんだよ?」



「当たり前にじゃないですか、
私はこの学園生活に人生賭けてるんですよ!

心機一転がんばろうと意気込んでた矢先に
そん中でもラスボス級に大事な部活ライフを
昔の好(よしみ)とか変な理由こじつけて……
いちいち指図しないでほしいっす!」
























腕組みをして参った様子で唸るアーサーに、
セリアは怒り心頭の表情で両手で掲げると
叩きつけるような怒声と共に握っていた紙片を
思い切りその鼻面へと突き返した。



こういう輩は少しでも引きの姿勢を見せると
それに漬け込んでどんどん弱みを探ってくる。

ここは乱暴にでも要求を無下に突っぱねて
きっぱり縁を切るのが賢明というものだ。





ふん、と少々わざとらしく鼻を鳴らして
そっぽを向いてしまった後輩を横目に、
二人のやりとりを後で見ていたフランシスは
さも困ったというように頭を掻いてみせる。

きっと言葉攻めのごり押しを続けていれば
そのうち落ちるとでも思っていたのだろう、
彼等を幼い頃から知っていた彼女にとっては
呆れるほどよく目にしていた光景だった。
























「やっぱりエリザさんに聞いたとーり、
吹部っても名前だけのヘッポコだったんすね。

だから私みたいなコネだけの超新米にも
必死で手を変え品を変え勧誘してんでしょう?



私―――もう付き合ってられません。
こんな部長と活動なんか御免ですからね!

あーえっと、アルフレッドさんでしたっけ?
貴方もその二人に無理強いでもされたんなら
この際後腐れなく抜けといた方がいいっすよ」
























椅子をほとんど蹴り上げるように立ち上がり、
渾身のしかめっ面でアーサーを睨んだ後に
窓際に立っていた青年に目を向けた。

足元にはご丁寧にネームタグまでつけた
自前ものだろう楽器のケースが置かれている。



先程彼が行った自己紹介から察するに
彼も彼女と同じく彼等とは幼少時代から
なんらかの関係があったものと思われるが、
よもやそんな単純な理由だけでこの部活にまで
巻き込まれたのだとすれば余りに理不尽だ。





言いたい事だけをありったけ撒き散らして
憤然と教室のドアへ駆け寄ろうとした刹那、
逸らした視界の外から急に鮮明に聞こえたのは
ずっと黙りきりだった若人の声だった。
























「な、なぁ……ちょっと待ってくれよ!
本当にもう行ってしまうのかい?」



「……どしたんすか、アルフレッドさん?

私を引き止めようとしても無駄ですよ。
よっぽどのことがない限り、アーサーさんや
フランシスさんと円満に部活動だなんて
当分できそうにありませんから」



「ああうん、それは君の様子を見てる限り
とても否定できない事だけどさ。

俺だって入部間際にいろいろあって
今のところ大満足ってわけでもないし……
とにかく、頼むからもう少しだけ落ち着いて
俺達の話を聞いてみてくれないかい?



彼等の言い方が悪かったのは謝るよ。
君が生徒会の役員だったからって
無理やりみたいな風にしちゃったのはさ」



「だいたい私はその生徒会にだって
無理くり押し込まれたみたいなもんですよ!

しかもその後はパシられ放題だし……
ああいうのを職権乱用っていうんすよね!」






















取り付く島もない素っ気無い態度で
駆け寄ってきた青年を突き放すセリアだが、
奇しくも彼が発した言葉に共感を覚えて
はたと立ち止まり目を丸くした。



また、腰に手をあてて額から煙を噴出す彼女を
どうにか諌めたアルフレッドは、
その言葉に意外な驚きを感じたらしく
続けるつもりだった話題をそっちのけにして
次の瞬間には率直な感想を口にする。

ただし後方の二人に聞かれるのは阻止しようと
心なしか双方とも小声気味になっていた。























「ええっ、君のとこもかい?

実は俺も入学したての時にアイツから
寮が相部屋になったことででかい顔されてさ、
他の生徒の部屋には行くなとか物借りるなとか
いろいろ条件つけられて参ってたんだよ」



「えーうそ、それマジで言ってるっすか?
そんな規制かかっちゃ折角の寮制なのに
誰とも仲良くできないじゃないですかー!」



「うん、きっとそれが狙いだったんだと……

アイツ基本的に人付き合い狭いから、
きっと俺だけでもずっと横に置いとかないと
寂しくなりそうで心配だったんじゃないかな。



まぁ俺はそんなのに付き合う気も無かったし
ちょっと前の大喧嘩をきっかけに飛び出して
個人の部屋に移り住んでやったけどな!」



「わー、結果オーライじゃないっすか!
良かったっすねぇスッパリ振り切れて」



「あぁ、その時はホッとしたけど……
今になって妙な再会を果たしちゃったんだよ。

気まずさは思ったよりないんだけど
やっぱり引っかかるというか何というか」



「あ〜……確かに気になりますねそれは。
私もそこだけは影ながら同情したいっす……」
























「―――丸聞こえだぞ、お前ら」



「「ひょあっ!?」」
























不意にすぐ後で低めた震える声がし、
そう思った時には傍らの青年が短い悲鳴と共に
大きく横に飛びのいて涙目になっていた。



見れば仁王立ちになったアーサーが
鼻息も荒く怒りの様相で佇んでいる。

どうやら教室にあった厚紙製のバインダーを
彼の脳天へお見舞いしたらしい。
























「てめぇなぁ、何コソコソ言ってるかと思えば
人のある事ない事噂立てしやがって……
どんだけ俺を悪者にしたら気が済むんだ」



「あああアーサー……!!
縦っ……縦向きは反則なんだぞぉ……!」



「うっさい! 無闇に俺の印象を
悪くしようとした制裁だっつーの」



「えー、だって本当のことじゃないか!」



「黙れ馬鹿、大人しくしとかねーと今度は
三枚重ねで脳天直下食らわすからな」























ばちん、とバインダーのバネをしならせて
脅すように凄むアーサーの気迫に圧され
一時は引っ込んでしまった青年だったが、
すぐに何か思い出したことがあるようで
すっくと背筋を正して彼の正面に立ち塞がる。



その時、少女は彼のポケットの中に入っていた
右手に握られた携帯電話を目に止める。

そういえば彼女が言葉攻めを食らっている最中
ずっとその端末をいじっていたような……?
























「お、何だよやる気満々じゃねぇか。
なんか秘策でもあるってのかよ?」



「ああ……秘策ってほどでもないけど、
さっきメールでセリアを説得できるような奴を
無理やり呼び出してみたんだよ。

ちょっと忙しかったみたいだけど
時間作って来てくれるって言ってたしさ」



「は? こいつを説得できる奴?」



「そうさ! セリアも覚えがないかい?

君が転校してきたっていう9月の終わりにさ、
やけに気の弱そうな目立たない男子が―――」
























「―――アル、その目立たない男子って
もしかしなくても僕のことだよね?
否定しないけど他に言い方があるでしょ……



ていうか、新入生歓迎会の準備で忙しいのに
急に三階東端の教室に来いって何のつもり?

いちいち場所とか教えてなくても
同じ部員なんだからそれくらい知って……





……って、あれ? 君は確か……
セリアちゃんだよね。 お久しぶりです」
























「……え? え??」
























唐突に開け放たれた出入り口の向こうから
細く柔らかい声が漏れた。

それを聞き振り返ったセリアの目に、
あからさまな驚愕と混乱の色が映りこむ。



相手はしっかりと彼女を見据えて
覚えがある風に話しかけているのだが、
彼女はなおさら混乱したように顔色を変えて
二、三度口を動かしたかと思うと、漸く一言を
当惑の息と共に吐き出すことができた。
























「あ――― あのぅ、ええと…………

どちら様……でしたっけ……??」



「マシューだよっ!

……って、やっぱり覚えてないかぁ。
仕方ないよね、会ったの何回かだけだし」























彼女の問いの言葉にほぼ条件反射の形で
鋭く切り返す、ウェーブした亜麻色の髪を
陽光に煌かせる青年は困ったように笑って
そっと室内へと踏み込んだ。
























+++
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ