夢現そして無限たる夢幻(シリアス)

□Great Spirit Prayer of the Iroquois 〜“夢魔”と育ちたがりの“水兵(セタンタ)”〜
2ページ/23ページ
















「すいません……  僕、もう帰ります」




















会議後の雑踏の片隅で、
消え入りそうな声が聞こえてきた。

ぼさぼさのパンク頭を掴んでいた手を離して
振り返ると、薄暗い廊下へと出て行く
ファーコートの背。




















「……?

お前、ちょっと待てよカナ…!」




















思わず声をかけようとそちらへ
一歩踏み出したが、聞こえていなかったのか
その後姿は大扉の外へと消えていった。





兄弟と違って溌剌な性格ではないにしろ、
今日の彼はいつも以上に
意気消沈しているように見えた。

時間を聞かれた時に見せた
戸惑いを含んだ苦笑も、
中央集団から一歩離れて
それを傍観している物憂げな表情も…、



どこかにうっすらと
影を含んでいるように感じられ、
柄になく少しだけ心配になった。




















「なぁ……イギリス。

今日のあいつさ、なんか
いつもと違うよな……?」




















ついさっきまで喧嘩していた
相手に問いかける。

またも狂乱劇を演じた義弟を
叱りつけていた彼は振り返り、
その言葉の意味を察して
廊下のほうにちらりと目をやった。




















「……あぁ、あいつか?
確かに来た時からなんか変だったよな。

連れでも追い掛け回して
疲れてたんじゃないか?」



「連れ?  あ〜、あの小っちゃいのね。

ああいうのってすぐどっか行っちゃうから、
連れてくるのにてんてこ舞い」



「俺の場合は今でも
でかい犬(メタボ的な意味で)に
振り回されてるんだがな……」



「ははは、違いないね」




















もちろん自分はカナダの連れている
小さな白熊のことを言ったつもりで、
うんうんと数回頷いて同意する。



「お前も昔はリスみたいにうろちょろして
子守が大変だったんだぞ〜」と
からかってやろうと口を開きかけた瞬間、
フランスはある種の戦慄に
空色の瞳を硬直させた。




















「……にしてもな。



あいつにあんな小さい子供が居たなんて
初めて知ったぞ?

どっかで見たような気もするんだが………」















+++




















「イーギリスぅー!

今日こそ国家認定してもらうから
覚悟するのですよー!!」




















一般会議場から8人のいる部屋へと
殴りこんできたシーランドは、
第一声に生みの親(なのか?)への
宣言を張り上げ突撃した。

セーラー服の爽やかな青をはためかせて、
憎憎しいスーツ姿のターゲットに
体当たりを食らわせる。




















「???

どうしたんだよそんな哀れむみたいな
目で見やがっ……ぐおあッ!?



〜〜っ!
てっめぇ、いきなり何すんだシーランド!」



「秘儀☆ライジングショットなのですよ!

伝説の秘奥義をマスターした
僕に死角はないです!」



「……はぁ?」



「おぉ、その技を習得しているということは……

シーランド君、もう海上決戦編を
読破したのですね」




















突如として伝説の必殺技をかまされた
イギリスが困惑の表情を作る傍らで、
意外にも日本が感慨深い様子で
口を挟んできた。



そういえばこの少年、隣の爺から
『パワーレンジャー』のマンガを
しこたま貰っていたような……。




















「おぉ〜日本!
あのお話すごく面白かったのですよ!

次はどんなお話ですか!?」



「えぇと、次は天上激動編ですね……

あぁ、内容は読んでみてのお楽しみですよ」




















この男…全ての編の筋書きを
暗記しているのだろうか……。




















「ったく…日本もあんまし甘やかすなよ、
こいつすぐ調子に乗りやがるから……。

……んで、改めて何の用だ?
今日はスウェーデン達と一緒に
帰るって言ってたろ」



「パパは外で待ってくれてるのですよ!

今日はイギリスに『認知しろ』
宣言しに来ただけですからもう帰ります!」



「はっ!?

ちょ、お前いくら家が近いからって
わざわざそのためだけにロンドンまで……」



「そっれじゃあ僕はこの辺で
失礼するのですよー!

みなさん、シーユートゥモロー
なのですよ〜☆」



「え゛っマジでそのためだけに
来たのかよお前!」




















イギリスが呆れ気味にツッコミを
入れるよりも早く、シーランドの水兵帽は
くるりと一回転して扉の向こうへ
飛び出していってしまった。



外に立っているらしい人物との会話が
二言三言聞こえ、速度の違う足音が
廊下に反響しながら遠ざかっていき、
やがて聞こえなくなる。




















「はぁ…子供はいいよなぁ、
いつも暢気でよ……」




















イギリスはそれを見送った後
深いため息を吐き出した。

大きい弟と因縁の髭(笑)のせいで
ただでさえ大変だというのに、
これ以上悩みの種を増やされたくない。




















「そういやカナダの連れてた赤目のガキ、
あいつと友達になったりしたら
こっちにちょっかい出しに
来ることも減るか……

……なんつってな」




















そう言って一人で苦笑して振り返ったら、
固まったまま微笑を引きつらせている
フランスとばっちり目が合った。















+++
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ