長編

□第1話
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『必ず…必ずよ!!』

そう必死に叫ぶ女の人の声が…耳に焼き付いて忘れられない。

なのに…自分が誰なのか、どこから来たのか全く分からない…思い出せないんだ。


目を開けると、薄暗い部屋に寝っ転がっていた。
じめじめして、とても良い部屋とは思えない…
とりあえず辺りを見ようと首を横に向けば、黒髪で長髪の人の後ろ姿が目に入る。


女?

そう疑問に思えば黒髪の人が俺に気づいたらしく振り向いた。


「おっ!目覚めたか」


意外にも声が低く、女の声ではないことに気付き、目覚めた第一声。


「…男?」


俺の発言に男は呆れた様にため息を吐いて、俺の体を優しく起こしてくれた。


「女に見えるか?」


そう聞いてくるものだからまじまじと男の顔を見るが…どう見ても整った顔で綺麗な肌、綺麗な黒髪。
見える…って言ったら怒るかな?
男は黙っている俺に再びため息を吐く。


「…動けるか?何をやったか知らねーが、大人しくしてるんだな。1週間ぐらいで出れっから…まぁ俺は今から此所から出るけど」


その言葉に、今自分が何処にいるのか分かってきた。薄暗くってじめじめした部屋“牢屋”って事に…

自分は何か罪を犯したのか?全く覚えてない…
また質問に答えない俺に黒髪の男は、返事は無し…かっと顔をして扉に向かって歩き出す。
明らかに牢屋の外に見張りはいなく、男は脱獄をしようとしてる事が分かる。
脱獄なんて出来ないけど…でも

―置いていかれる…
――1人になっちゃう

勢い良く男の腕を掴んで俺は言った。


「…ッ!ま…待って!……お、俺もッ」


初めて会ったと思われる男に泣きそうな顔でひき止められる。
その時、牢屋の奥にいたせいで気づかなかったが…腕を掴む少年の髪は夕日のように綺麗な朱髪で目は透き通るような翠色だった。
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