バトルシーン練習企画

□ガブリエルVSベリアル
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 見覚えのある光景。
 石を積み上げて造られた家が立ち並び、異様な量の霧が漂うそこに、ベリアルは立っていた。
 家はそこにあるものの、人の姿は無い。邪魔な障害物はあの憎たらしい管理人が消した、ということだろうか。それならこの光景が自分にとっては障害物だぞ、とベリアルは心の中で悪態をつく。
 「…あークソ、見覚えあるどころじゃねえぞ…」
 トラウマを抉ろうとしているとしか思えない。
 ここはどう見ても、ソドムの―――ベリアルが朽ちさせた町だった。
 嫌な思い出を蘇らせつつ、管理人の言ったことを思い出す。
 (『バトルロイヤルしたら面白そうじゃん』、ねぇ)
 要は戦え、ということなのだろう。ベリアルは無意識のうちに舌打ちをこぼすと、恐らく自分と同じようにこの場に送られたであろう相手を探すべく、霧の中へ歩き出した。

  ***************

 目を開ける。
 目の前に広がったのは、祭壇だった。
 「…ここ、は」
 教会?
 ガブリエルはきょろきょろと辺りを見渡す。
 彼女の両脇には硬い背もたれがついた椅子が並んでいた。座っている人間は誰もいない。それどころか、祭壇の神父すらいない。
 「…」
 あのときと、同じ。
 この教会のつくりは、あのとき―――彼女がソドムの町が滅ぶことを知らせに地上に降りてきたそのときと、全く同じものであった。
 「…もう、悪趣味ね。あのミジンコ」
 管理人をミジンコと形容した自分が何だか面白くて、一瞬だけふっと笑う。
 (ここにあえて私を送り込んだのなら、彼も―――)

 バンッ!!とド派手な音が背後から響いた。
 「みーっけ」
 低く、彼はそう言う。
 ガブリエルはさほど驚いた様子もなく、ゆっくりと振り向いた。
 「やはり貴方だったの…ベリアル」
 そこには、蹴破られたドアとベリアルが居た。確認するのと同時に、濃霧が教会の中へなだれ込む。
 ベリアルは、不気味に笑みをつくりながら答えた。
 「皮肉なことにな」

 かつてソドムの町で一戦交えた二人が、再びこうして向かい合っている。

 「あの時はたしか…逃がしたんだったわね」
 「戦略的撤退だ、勘違いすんな」
 「ふふ、そう」
 ガブリエルは笑う。いつベリアルが襲ってくるかもわからないのに、すっかり気を緩めていた。
 「で、地獄に帰った後、どうだったの?今こうして私の前に立っているってことは、ブエルにでも治してもらったのかしら」
 返事は無い。ガブリエルは元々の笑みに少しの嘲笑を混ぜて言った。
 「貴方の力では本来、地獄に帰ることなど出来ないのに無理矢理それをするから…痛かったでしょう、身体」
 返事はやはり無かったが、舌打ちが返ってきた。ガブリエルは「あら怒った?」と首を傾げる。
 ベリアルは不機嫌そうに溜息をつくと、ようやく口を開いた。
 「何を言い出すかと思ったら、やっぱりトラウマ抉ろうとしてんじゃねえか。何、お前もあいつサイドなわけ?」
 「あら心外。私だってこの場所は好きじゃないわ。管理人さんが悪趣味だった、それだけ」
 「そのわりにはふざけたことぬかしてたよな?」
 「そうね、ずっと言いたいことだったし」
 当たり障りの無い切り返し。ベリアルは一拍おいて、

 「やっぱお前うっぜぇわ」

 瞬間。

 地面を蹴る音が聞こえたかと思えば―――ベリアルはガブリエルの首を掴んでいた。
 「すげえうぜえ」
 「っ、!」
 一瞬の出来事に理解が追いつかないガブリエルを一瞥し、ベリアルは無表情で力を込める。ガブリエルは呻くことしか出来ない。
 「う、ぐッ…!」
 「……ざまぁねえな」
 みし、とガブリエルの首から嫌な音が聞こえた。
 ガブリエルの足が、地面を離れる。
 ガブリエルの身体が、力を失ってゆく。
 そして、ガブリエルの蒼い瞳から光が消える―――そのときだった。

 バシャン、と。彼女の身体が形のない水に変化し、ベリアルの指から逃れ地面へ落ちた。
 「…あ?」
 やっと無表情が崩されて、ベリアルは怪訝そうな表情を浮かべる。
 「…危なかったわ。状況によっては本当に殺されていたかもしれないわね」
 見れば、彼の背後で濃霧が渦巻いていた。それは折り重なるように漂い、やがて人の形を造った。―――水になったガブリエルが、今度は霧という水で元の身体に戻ったのだ。
 「悪趣味管理人さんに助けられたのかも、ね」
 ガブリエルはそう笑うと、ベリアルに向き直る。
 「んー…。戦う気は無かったんだけど…管理人の手のひらで踊らされるのも癪だし。けど…」
 ガブリエルは、彼の紅い瞳を見据えて言う。
 「私、スイッチ入れちゃった?」
 ベリアルは凶悪に――――笑っていた。


      **************


 「これはちょっと…嫌われすぎなような気がする」
 「んー?」
 「さっきからガブリエルが遠まわしに『あいつまじ腹立つわー』って言ってくる。これはなかなかこたえますな…」
 「だってお前、腹立つぞ?」
 「ええっ何か面と向かって言われた…ってこら勝手に喋るなお前の出番はまだ!」
 「しぃはマフィアなんだぞ!我慢なんて性に合わないぜ!!」
 「名前まで出すなネタバレす…もうしてる!!!」
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