紙束
□影と灰色
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「ヴィシュヌ、ヨシツネ、ルシフェル、サタン、アリス」
「へ?」
晩飯のメニューでも告げるように淡々と呟いた横顔を見た。
全員で目的のダンジョンへ移動する途中。
前方では一年トリオとクマが、後方では里中と天城がそれぞれの話題で盛り上がっている。
「俺が今着けてるペルソナ。残りの七体はダンジョンで見つける。一杯になったら合成しに一旦ベルベットルームへ戻る」
「了解。何回か往復すんだな?」
「うん。依頼品の回収と各自のレベル上げが終わったら撤収」
「おっけー」
最近雨の日は自然とフードコートに集まるようになった。
今日も傘を片手にフードコートを覗いてみると、打ち合わせでもしたかのようにいつもの面子(キツネ含む)が揃っていてちょっと笑った。
俺に気付いたりせが手を振って、周りのみんなも俺を見て、やっぱりって顔で笑って。全員揃って家電売り場へ向かった。
「今日の依頼はいくつ?」
「四件」
「うっわ。みんな人使い荒いなー」
「頼られるのは、嬉しいよ」
イヤイヤ、限度ってもんがあるだろ。
街の連中は月森を便利屋か何かと勘違いしてるらしく、ひっでぇ無理難題をふっかけてくる。
……それを月森が叶えちゃうもんだから、無理難題のレベルは上がる一方だ。
そうやっていろんな人の相談に乗って、部活にも出て、やたらたくさん掛け持ちしてるバイトもこなして。
その上仲間のレベル上げのペースから装備の費用まで全部管理してんだから、本当に頼りになるリーダーだ。
「いつもありがとな、リーダー」
するりと口から零れた本音を聞いて、月森は何も言わなかった。
いつもどおりの涼しい顔が、どこか困ったように見えた。
「ヨシツネ、アリス、ロキ、コウリュウ」
晩飯のメニューでも告げるように淡々と言う月森の横顔を見た。
「相変わらず強そうなメンツだことで」
「今日は禍津の宝箱開けまくるつもりだから」
「げっ、『アレ』出てくるじゃん!」
「『ソレ』が狙いだ。装備揃えようと思って」
禍津のダンジョンへ全員で向かう途中。
さっきまで隣にいたはずの里中は、いつの間にか女子の輪に入ってキャッキャとはしゃいでいた。
「装備って、全員の?」
「できれば。ちなみに俺とお前はフル出場のつもりだからよろしく」
「うへ、マジかよ!」
思いきり顔をしかめてみせるけど、内心では望むところだと気合いを入れる。
多分月森も分かってるんだろう。口角が微かに上がった。
相棒の表情筋と感情を繋ぐ回路は、かなり複雑な造りをしている。心の中がなかなか表情に表れないのだ。
その月森が自然に頬を緩めている。珍しいこともあるもんだ。
いつになく機嫌が良さそうな横顔に、ここ数ヶ月の疑問をぶつけてみようと決めた。
「なぁ、ずっと気になってたんだけどさ」
「うん?」
「着けてるペルソナを俺に教えんのって、なんで?」
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