紙束

□ふるさと
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「……よしや、うらぶれて、いど、の……かたい、と、なるとても。……かえるところにあるまじや」

呟くように詩を暗唱し、途切れる。
視線だけがこっちを向いた。

「……お前さ」
「何」
「帰って来んの」

何のことか分からず、首を傾げる。

「向こうに帰った後、お前はまたココに帰って来ることがあんの」

陽介の顔を見た。
表情がない。普段はくるくると様々な感情を表す顔だが、今は何の表情も浮かんでいない。それだけでひどく不気味だ。
つられて自分の顔からも表情が消えていくのを自覚しながら、それでも無理に笑う。

「帰って来ない方がいいのか」「そんな事言ってねえだろ!」

間髪入れずに怒鳴られた。
驚いて、せっかく浮かべた笑みが消えてしまった。
陽介はしばらく俺を睨み、鋭く舌打ちをして街を見下ろした。

「茶化すな。……スゲームカつく」

硬直していた視線をぎくしゃくと外し、俺も街を見下ろす。



葉が落ちて裸になった木が目立つ。
暗くなりかけた空の下、等間隔に並んだ街路樹が骨ばった無数の手のようで不気味だ。

寒い。
沈黙がつらい。
……何かしゃべれよ、陽介。





「生田目を殺そうとした。」





心臓が跳ねた。
胸中を読み取ったようなタイミングで言われた言葉に、頭の芯が一気に冷える。

「本気だった。オマエが止めなかったら、やってた。」

陽介の顔を見ようとした。
しかし体がそれを拒否した。
指先が震えた。それをどうにか止めようと力一杯手すりを握りしめる。

「お前さ、最近俺を避けてるだろ」

表情のない声が追い討ちをかける。
吸い込んだ空気がいやに冷たい。

「……なんで、そんな話、」
「別に。……ただ、お前は俺と縁を切りたいんじゃねーの、って思って」


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