紙束

□ふるさと
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動かなかった首がようやく動いた。
陽介を見た。
陽介も俺を見ていた。
表情がない。
体が凍ったように動かない。



「……なんだよそれ」



不意に聞き覚えのある声がした。
誰の声だろうと考えて、ようやく自分の声だと気づいた。
口が勝手に言葉を続ける。



「なんでそんな事言うんだ」
「お前がそう思ってんじゃねえのって思って」
「俺がいつそんな事言った」
「言ってねえよ。けど、腹ん中はどうだかな」



陽介の声は淡々としていた。

不意打ちで殴られた後のように、遅れてじわじわと衝撃がやってくる。
こめかみの辺りが痛い。
耳鳴りがうるさい。

……陽介の真意が読めない。
表情のない目がこわい。



「……人のせいにするな」
「は?」



思わず呟いてしまった。
まずい、と思ったけど、止まらない。



「本当はお前の方じゃないのか」
「何が」
「俺と縁を切りたいのは、お前の方だろう」
「ハァ?」

陽介の顔が思い切り歪んだ。
あぁ、俺の嫌いな表情だ。

「何だよソレ!」
「図星か」
「言ってねえだろ!そんなこと!」
「じゃあ何でこんな話題振ったんだ」
「だから!それは、」
「お前だって俺の事避けてたじゃないか!!」



噛みつくように叫んだ。

まずい。
止まれ。
これ以上はまずい。

余計なことを口走りそうで、奥歯を噛み締めて口を閉じた。
同時に息も詰めた。数秒して大きく吐き出す。吐いた息で目の前が白く霞んだ。
陽介から視線を引き剥がし、手で目元を塞いでうつむく。

落ち着け。荒れてどうする。
頭の中の冷静な部分に従い、深呼吸を数回。
波立った感情を何とか抑え込む。



その間、陽介は何も言わなかった。
滅多に声を荒げない俺の怒声に驚いたのか、身じろぎもせずに隣に立っていた。


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