紙束
□ふるさと
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冷たい風が頬を叩く。
足元がひどく冷えて身震いをする。
「……怒鳴って悪かった」
沈黙している陽介に謝った。
「……や、俺も……ごめん」
若干戸惑った陽介の声。
返事があったことに安堵した。
目元を覆った手をそろりと外す。
街灯に灯りが灯っている。
そろそろ商店街は店仕舞いの頃だ。
「……俺、」
俺の呟きを聞きつけて、陽介がこちらを向いたのが分かった。
俺は自分の黒いスニーカに目を落とす。
「俺は、破綻してる」
「は?」
訝しげな陽介の声に少し笑う。
「俺はみんなが羨ましい。誰かを殺したくなるほど憎むなんて、俺にはできないから」
「……イヤミかよ」
「まさか」
冷えた両手をすり合わせ、握りしめる。
「俺は怒りで誰かを殴ったことはない。感動で泣いたこともない。感情が高ぶると、同時に頭の芯が冷えて、かえって冷静になるんだ」
そんな自分が、昔から嫌いだ。
「お前が生田目を落とそうと言い出したとき、正直羨ましいと思った。俺は、……菜々子が息をしてないのを確認したのに、涙すら出なかったから」
菜々子の小さな手を握った。
こわいよ、と呟いた彼女の手から、ふっと力が抜けた。
小さな頭がかくりと傾いだ。
叔父さんが叫んだ。血を吐くような絶叫だった。
千枝や雪子が泣いていた。
陽介の目も潤んでいた。つらそうに眉を寄せていた。
俺は菜々子の手を握っていた。
それだけだった。
「あの時、自分は破綻してるんだと思い知った。みんなとは違う」
怒りと悲しみを露わにするみんなが、人間として正しい姿だ。
なら、それを冷静に眺めている俺は何だ。
みんなとの間にどうしようもない隔たりを感じた。
「……それ、俺を避けてたのと関係あんの?」
「お前だからな」
「ハァ?」
顔を上げる。訳が分からないという表情の陽介と目が合った。
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